必要に迫られる状況
「専門家レベルを目指していないなら……と言われると耳が痛いが、現状はこれで間に合っているからな。今は射程距離よりも練度を上げる事の方が重要だ。魔法そのものの技量が上がれば必然的に射程距離も伸びるしな」
「そもそも、魔法の射程距離ってのは意図的に伸ばせるものなのか? いや、三センチ未満の魔術師が存在する以上は自然と伸びるものじゃないってのは想像つくが……」
俺は疑問に思った事を聞いてみる事にした。一応、話を聞いている分には訓練次第である程度までは伸ばせそうだが。
「意図的に伸ばす事も、自然と伸びるという事も、どちらも起こりえる事だ。要は意識的に伸ばそうとしているか、無意識のうちに伸びたかの違いでしか無いからな」
「意識的に伸ばすってのは理解出来るが……無意識のうちに伸びるって事があるのか? それで三センチを超えないってのも変な話に聞こえるが……」
「才能……と一言で言ってしまえば簡単だが、実際は必要に迫られる事があるか無いかという話に収束するだろうな」
「必要に迫られるってのは? どうしてもそれを習得しなければいけない状況があるって事か?」
正直、想像がつかない状況だなそれは。
「ああ。簡単に言ってしまえば、自分の頭上に魔法を発動させて、さらに魔力を練り上げる事で出力を上げる事があるだろう? あれだ。あれをやるのに自分から少し離れたところに魔法を出現させる必要があるわけだ」
……あれか。確かに一度頭上に出現させ、それを維持しつつさらに出力を上げるという方法は存在するな。一瞬で魔法を最大出力まで引き上げる事が難しい以上、空中で持続させる事は必要な技能と言える。確かに言われてみたら自分の体とは少し離れた場所に出現させるな……本当にすぐ近くじゃ火力を上げたら火の中に自分の手を突っ込むような形になってしまうからな。




