絶対的とはとても呼べない才能
「人数の少なさとの釣り合いが取れていないというわけか」
「ああ。そもそも三十センチから三百センチという距離の長さを同一ランクにまとめようという基準がおかしな話だからな。この長さは今後の成長で伸ばせる見込みであって、保証ではない。これは逆に言えば、壁を突破する事は絶対に出来ない事の証明にもならないという事だ」
「同じランクの上限までは伸ばしやすいというだけであって、そこまで確実に伸びるというわけではないわけか」
三十センチと三百センチじゃあ上限と下限にギャップ差があり過ぎるからな……どんなに今後の成長性に違いがあると言っても、ボーダーすれすれの奴が別のランクの奴と決定的に何かが違うという事でも無いだろう。
「ああ。そこを勘違いしてかえって堕落する魔術師も少なくないと聞く。実際に重要なのは才能があるか無いかではなく、その才能を上手く利用出来るかどうかにかかっているという事だ。いくら才能があっても、活用しなければ持っていても意味がないわけだな」
「距離の長さで決定的に差の出る魔法を扱えなきゃ、実質同じランクってわけか」
「そういうわけだ。手のひらから三十センチ以上離れた場所から魔法を撃てたとして、その発射位置の違いを有効活用出来るセンスが無ければ力量差など生まれようが無いというわけだ」
「三十センチか……上手く利用出来る奴ならかなり幅の生まれる距離だな。要するに、お前で例えるなら爆発魔法を手のひらからどれだけ離して発動出来るかという話だろう? 今にして思うと、才能の差がモロに出る魔法だな」
オリヴィエの発動する爆発魔法は自分自身にもダメージを負う危険性のあるかなり扱いにくい魔法だからな。その爆発そのものが離れた場所で発生すると言うのであれば、自傷する危険性は一気に下がると言えるだろう。
「だから使い手は殆どいない。最大射程距離が三十センチ未満では危険過ぎて使い物にならんからな。この時点で八割の魔術師からしてみたら習得する選択肢にも上がらんというわけだ」
つまり、もっと長い距離を持たないと習得すべきでない魔法という事になるわけか。……だが、オリヴィエの場合、転送魔法を併用する事でこの距離を伸ばして魔法の危険性を踏み倒しているわけだ。そして、もしもこの方法が使えるなら、今度は射程距離が三メートルあったとしても事実上無意味な才能に成り下がるというわけだ。全体の二割未満という選ばれた才能が別の魔法一つで一気に形骸化するとなると、確かに絶対的な才能とはとてもでは無いが呼べないな。




