歓迎
「もう帰ろうぜ? あの女は無事なんだろ」
確かにゲイルの言う通りだ。ここで普通に生活しているなら無理する必要もないな。
「そうだな、もうここに用はないな」
「なんだ、もう帰っちまうのか?」
門番のオッサンに呼び止められる。
「ああ、姫は助け出さなくても大丈夫そうだからな」
「まあ、王子様限定じゃなくて王族でもいいならこいつが助けに行けるんだけどな」
「え? ちょっと待て、あんた王族なのか?」
執事から質問された
「いや、俺は王族と言うよりは酋長に近いな。一応王とは名乗っていますが」
「じゃあ、あんた王子でいいんじゃないのか?」
いや、俺は王子ではない。なぜなら俺の親は王ではなく、仙人だからだ。
「残念ながら王様なのは俺の親ではなく、義理の兄です。だから俺は王子ではないですね」
「ちょっと待て、もしかしてお前姉か妹いるか?」
「え? ああ、義理なら両方いますが」
「じゃあ、もしかしてだが、その人の中で王子や王様と結婚した人がいるんじゃないのか?」
「いるでしょうね、多分」
流石の俺もそこまで詳しく家族関係は把握していない。
「それなら、お前の義理の姉か妹が王子と結婚したら、お前は王子の義理の兄弟になって、王様にとっては、義理の息子になるんじゃないのか!?」
え? ちょっと待って。
「まあ、そういうことに、なるのか?」
「だとしたら、お前は限りなく王子になるんじゃないのか!?」
「いや、いやいやいや、だって俺は王の子供ではないし、直系じゃなければ王子にはならないのでは?」
「だが、王の義理の息子で、しかも王族なら王位継承権も持っているんだろう?」
王位継承っていうか、一時的に王位に就任したが。
いや、それでも俺を王子とは表現できないだろう。
「確かに言葉で表現するならそうかもしれませんがね」
「だったら実質王子ですよね!?」
実質ってなんだよ?
「それはいくら何でも身分詐称でしょうね」
「だとしても嘘は言ってないだろ! あんたは王子なんだろ!」
いや、絶対違う。間違いなく俺は王子じゃない。
「もう何でも良い! 王子が来たぞー! 王子様がここに訪れて来たぞー!」
突然執事が通信装置で話し始めた。
「おい、いまの通信は」
「お待ちしておりました王子! さあ、姫がお待ちになっていますよ」
こいつ、無理やり俺を王子ってことにしやがった。
「おいおい、どうなってんだよこれ?」
「もうしばらく茶番に付き合えということだろうな」
「うそだろ、この一分一秒が惜しいって時に」
「焦るなって、どのみち列車は夜行しか走ってないんだ。乗り遅れたら向こうへ着くのは明日になる」
「……なあ、もし列車に乗れなかったら今夜はどうしのぐつもりだったんだ?」
「そりゃ野宿だろ」
「ま、まじかよ……?」
それ以外に無いだろう。まあ、どこかに泊まることのできる場所があれば話は別だが。
「さあ、どうなされたのです? 早く屋敷へどうぞ」
執事のいわれるがままにあとを付いていく。
それにしてもでかい敷地だ。
この森林全てが個人の所有物だとは。
「まだ着かないのかよ」
しばらく歩き続けたため、とうとうゲイルから愚痴が零れる。
「後少しで付きますよ」
執事はそう答えるが、さっきもそう言っていた。
これだけ歩きながら、本館が影も形も見えてこないとは、一体どれほど門と離れた距離に有るのだろうか?
二人の門番が見回りに来た執事に驚いていたのもこれなら頷けるというものだ。
「あ、見えてきましたね。あれが、姫が居らせられる館その名も、ヘヴィベアの館です」
テディベアみたいな感じで呼ぶなよ。要するに重量級の熊がいるって意味じゃないか。
さらにしばらく歩き、ヘヴィベアの館の前に着くと一人の男性が立っていた。
「おお! あなたが王子か! 遠路はるばるこの館へようこそ!」
その男は俺たちの姿をみるやいなや、大喜びで俺たち二人を歓迎してくれた。
「あの、この方は?」
「こちらにおられる方こそがこの伯爵邸の主、フィリップ・エイブス・ノートン伯です」
ああ、この人がミリア姫の部屋とボルドフ姫の部屋を間違えて夜這いして大火傷したっていう火遊び伯爵か。
「これはこれは、伯爵様。お会いできて光栄です」
「うむ! 堅苦しい挨拶は抜きにして早く中に」
いわれるがままに館の中へ入った。




