今はバランスが悪い
「……まあ、学問における完全情報ゲーム状態なんてものは、つまりこの世の真理を解き明かした状態という事になるからな……人がその領域にまだ辿り着いていない以上、不完全情報を取り扱っていると断言しても差し支えは無いだろうな」
「ああ。要するに本当の意味での情報公開というものが事実上不可能というわけだ。という事は、情報を制した方が勝つという構図は必ず出来上がってしまうわけだな」
どう頑張っても隠し事をするという状態で安定してしまうわけだな。
「まあ、そういうわけで情報の出し惜しみや共有への躊躇いは確実に発生してしまうわけだ」
「それが度を越して酷いって話をしてるんだけどね」
オリヴィエはミーシャに語り掛けるが、ミーシャは特に反応を示す事もなく抑揚の無い声色で言葉を返す。
「そこはバランスの問題だな。このバランスが絶妙に成り立っているなら技術は順調に進歩していく事になる。……が、このバランスが崩れれば、一気に停滞する事になるな」
「今は停滞している時期って事か?」
「そうだね。そのせいで技術的な部分では帝国に追い抜かれている。つまり帝国の方が秘匿と開示のバランスが良いって事になるね」
なるほどバランスか。確かに共有の方に偏れば誰かが研究してくれるのを待とうという発想になって発展が遅れるかもしれないし、逆に秘匿する方に偏れば今度は他の誰かがとっくの昔に解明した情報を検証しなくちゃいけない事になる。これはどちらにしても効率が悪い状況と言えるな。
「じゃあ、その帝国の制度か何かを参考にすれば……いや、まあ、それが出来れば誰も苦労はしないって話だとは思うが……」
「難しい話だな。とてもではないが、善意だとか志だとかで達成出来るものではない。どうしたって自分は何も公開せずに情報を手に入れる事を考えてしまう」
まあ、情報戦をやっているわけなんだからそう言う発想になるだろうな。そして、身近な奴に負けないように行動し続けた結果、全然関係ない外部の連中に勝てない状況に陥ってしまったわけだな。




