技術を公表しない理由
「突き詰めてしまえば極論その通りだが、自分達の持っている技術が世界一で無かったとしても公表しない理由はある。研究費用の回収のためだ」
「研究費用を? ……普通、費用を回収するために売り捌くものなんじゃないのか?」
「それは物によるだろう。最初から売り物として作ったのであれば確かにすぐに売り出した方が良い。……が、売り物として出すつもりの無い物に関してはそうとも限らん。例えば武器の製法だ。武器を生産して売る事はあっても、武器の製造法を他人に教える事はまずない。たとえそれが失敗したデータだったとしてもな」
なるほどな。確かに製造を行っている企業にとって、研究データは秘中の秘だ。何故ならデータを集めるのにも金や時間はかかるからな。そんなデータが公表されれば、金や時間をかけた分だけ損をする事になってしまう。
「確かにそのデータは知られるわけにはいかんな。失敗データだって、そのデータが失敗したものだって理解した上で入手すれば、それらの実験はやらなくて良いって話になってしまうからな」
「ああ。だからこそあえて技術の公表をしない場合がある。公表する事が当たり前になったら、公表されるまで研究をやらない者が続出するからな」
……まあ、それはそうだろうな。社会全体というマクロな視点で考えれば、データはどんどん公表すべきという結論になるだろう。なぜなら、ある研究が成功したのであれば、自分はすでに成功した研究では無く、まだ研究が進んでいないものに挑戦すべきだと判断する事が出来るからだ。これならば無駄なく合理的に様々な分野の研究を進める事が出来るわけだ。
「その研究をやらない者が増えるという事は、それだけ研究が遅くなる可能性が高くなるな。研究員が十人いれば、十通りの研究が行われるのに、一人しかいなかったら一通りの研究しか出来ない事になる」
つまり、研究員一人一人というミクロの視点に立って考えてみると、他の誰かがやってくれるだろうと考えて試行回数が減ってしまうわけだ。いくら情報を共有していないからといっても、研究内容がもろ被りするなんて事もないだろうから、つまり全体的に見るとデータの蓄積スピードが著しく低下してしまうわけだ。これが社会全体で見た時に合理的かと聞かれると……あまり合理的とは言えないだろうな。