知識の秘匿
「ある理論を証明するためには別の理論を証明する必要があって、その理論を証明するには別の法則が正しい事を証明する必要が……みたいな事が延々続く事もあるわけか」
いわゆる難問って奴のお決まりのパターンだな。
「まあ、召喚魔法に限った話じゃないけど、だいたいがそんな感じだね。一応、技術が発展していけば解明できるだろうって理論も結構あるから、今後に期待するしかないね」
「まだまだ発展の兆しはあるってわけか」
将来的にはもっと凄い魔法が開発される可能性もあるわけだ。
「まあね。この大会でも、時々それが垣間見える時がある。……この時まで学会に発表していないだけとも言えるけどね」
そう言いながらミーシャは吐き捨てるようにつぶやく。なるほど確かに学会に未発表の理論なら他の選手からしてみたら……それこそ本職の人間でさえも理解不能の魔法という事になる。初見殺しとしてはこの上なく効果的に働く事だろう。
「世間に公表する利益より、独占して自分のために使った方が利益が大きいわけか。まあ、理論を公表したら自分よりも上手く使いこなす奴が現れて順位を越されるって事もあるだろうから秘匿して独占する奴も出て来るだろうな」
「それ自体は仕方ない事なのかもしれないけど……そのせいで技術の発展が停滞しているのは褒められた事じゃないよね」
そう言いながらミーシャは横目でオリヴィエの事を見つめる。口ぶりからしてオリヴィエに何か言いたい事でもあるのだろうか。
「思い当たる節は多いな……耳が痛い。だが、私自身も何も聞かされていないから何とも言えんな。私が所有しているのも今後市場に流れる予定のあるものばかりで、一族で秘匿しているような技術や知識は別の者が管理している」
「そんなんだから他の国に追い抜かれてるんじゃないの?」
「……そういう部分はあるだろうな。そもそも我が一族の中に、一族で秘匿している知識を完全に理解している者が何人いるのかも甚だ疑問だ。それほど様々な分野で秘匿している知識がある。そしてその分野全てに精通している者がいない以上、一族の中でさえ技術力の停滞が起こっている可能性も否めないな」
実は新技術を開発するためのスキルツリーは全て揃っているのに、身内にすら秘匿しているせいでそれに気が付けないって事か。確かにその損失は計り知れないだろうな。




