召喚するための契約
「それにしても……密室にトンボってどうなんだ……? ちゃんと入り口から出られるのか?」
トンボはかなり原始的な肉体の構造をした昆虫だからな……翅をたたむことが出来ないという昆虫の中でもかなり珍しい種になる。……まあ、今俺の目の前にいるこいつらはモンスターだから、昆虫と同じように考えても良いのかどうか甚だ疑問ではあるが。
「アリみたいに一度に大量に出そうとしなければ大丈夫かな」
「一匹だけなら問題ないって事か。トンボは基本的に単独で行動する生物のハズだが……こいつらは集団で行動するのか」
「いや、この子たちも単独でしか行動しないよ?」
「じゃあ、集団行動出来ない生物を召喚したのか? 本当に制御出来るのか……?」
一匹一匹が自由行動を取るのだとしたら、それぞれを個別でコントロールする必要が出て来るハズだが……何とかなるものなのか?
「召喚した時点で私の言う事は聞くようになっているから、そこは問題無いかな」
「だが、横の仲間意識は無いんだろ? どういう原理で召喚してるんだ? 人間で例えたら世界のどこかにいる誰かをランダムに召喚しているって事だろ? それとも誰を呼び出すかは事前に決まっているのか?」
「この子達はある山に棲息している固有種なんだけど……まあ、人間で例えれば特定の村に住んでる村人を召喚したようなものだね。他人ではあるけど同郷ではあるよ」
最低限度の共通点はあるって事か。
「じゃあ、その山にいるモンスターと召喚の契約を結んだのか? だが、誰と契約したら種全体と契約した事になるんだ?」
「難しい質問だね。村で例えれば村長……と言いたいところだけど、群れで行動しない種だからちょっと違うんだよね。系統としては領主、あるいは王様……種としての数が少ないからまだまだ分類は出来ていないけど、領主と契約して領民を呼び出してるってイメージかな」
「じゃあ、こいつらを支配している上位種がいるって事か?」
「そういう事ではないかな。例えば、アリを召喚するとして、幾つかにレベルが分けられているんだよね。上から、あらゆる種のアリを召喚出来る事、特定の種のアリを召喚出来る事、特定の巣に棲息しているアリを召喚出来る事……大まかにわけるとこの三つかな。そして巣の単位で契約するなら、その対象は女王アリが該当するよね。だけど女王アリは別に上位種じゃない。単にそういう生態をしているってだけだし」
その例えでいくと、最上位のレベルの召喚方法ではないのはわかるな。問題はその召喚の対象が種全体にかかっているのか、それともその山に棲息している個体に限定しているのか判別が出来ないってところか。そして……女王アリに該当する個体がいないって事か? つまり明確な命令系統が存在しているわけじゃないのか……?




