まずは様子見
「ちょっと待った」
俺が洞窟から出ようとすると、背後から不意に呼び止められた。
「どうしたミーシャ? 今出ると何か不味いのか?」
俺を呼び止めたのはミーシャだった。わざわざ呼び止めるという事は、まだここに残った方が良い理由でもあるのか?
「不味くはないけど、どうせ出るならその前に様子見したいよね」
そう言いながらミーシャは杖を構える。
「召喚魔法? 洞窟の中でか?」
ミーシャが杖を構えるのを見ると、オリヴィエは少し慌てた様子でミーシャから距離を取る。確かにこんな閉鎖した空間で巨大な生物が出てきたら圧し潰されかねない。俺も壁際にまで後ずさった。
「そこまで大きいのは出さないよ」
そう言いながらミーシャは何か呪文のようなものを口ずさむと、足元から魔法陣のようなものが浮かび上がる。
「さっきのとは別のモンスターか……! ……よくそんなものと契約が成立したな……」
さっきとは異なる模様の魔法陣を見るや否や、オリヴィエは驚いた様子で魔法陣に注目する。
「……? トンボか……そのモンスター?」
魔法陣から出現したのは人間サイズはあろうかという程の巨大な体躯を持ったトンボのような生物だった。その規格外の巨体にさえ目をつぶれば、普通のトンボだ。……が、明らかに体のスケールが昆虫のそれではない。さっきのモグラのようなモンスターと言い、むしろ俺達の方が小さくなってるんじゃないかと錯覚を覚える程だ。
「うん。オーガヤンマって言ってね。空中での機動力は圧倒的だよ。四つの羽がそれぞれ独立して羽ばたく事で空中でのホバリングが可能になるっていう、飛行能力を持つ他のモンスターと比較しても唯一無二と言って良いくらいの特徴を持っているね」
「まず最初にこいつらを飛ばすって事か?」
「そうだね。オリヴィエが空中戦を仕掛けるみたいだし、その前にこいつらを飛ばして様子見をした方が良いと思ってね。魔力もリンクしているから、攻撃を受けている事だってここにいても感じ取れるし」
こいつらを攻撃して来る選手がどれだけいるかでオリヴィエがどれだけ安全かがわかる事になるハズだ。こいつらへの攻撃が無ければ、オリヴィエはほぼ一方的に攻撃を仕掛ける事が可能だと言う事になる。




