安全策は取れない
「動揺しなかったか……確かにそこまで激しい動揺はしなかったかもしれんな。あくまでも比較的ではあるがな」
「まあ、動揺しようがしまいが、結局は二択問題が続くわけだからな。冷静な状態なら解けるような問題でも出ない限りは結果は変わらんだろう」
わからなかったら正解率は五割だからな。わからないならどっちを選んでも同じだ。不利益……正解率を下げるのは解ける可能性のある奴だけだ。
「そういう問題が出た選手も確実にいたとは思うが……」
「それが原因で脱落した選手が僅かでもいるなら、その分だけ運で勝ち上がった奴も増えるわけだから、相対的に座学が苦手な選手が多い事になるな」
「運も実力の内……と言えばそれまでだが、この競技には分不相応な者が少なからず紛れていそうだな」
「まあ、それは今後のふるいにかけられてどんどん落ちていくだろうから問題無いとは思うが……問題なのはこの競技の参加者は座学を得意とする選手が比較的少ないって事になる。これはつまり、今後の審査が座学だとすると露骨に明暗が分かれる事になるってわけだ」
人数が絞られれば絞られる程、より高度なレベルが要求されるようになると考えれば、あの問題で間違えた奴には到底解けないような難問が出される可能性が出て来るわけだな。……と、言うよりほぼ間違いなく出て来るだろうな。世間の笑われ者になるような連中があまり上の順位にまで行かれると大会のブランドに傷がつくからな。
「まあ、そうなるな」
「つまり、座学に自信の無い選手は今ここで出来る限り頭の良い選手を倒しておかないと不味い事になるってわけだ」
「……次、座学が出ても勝ち残れるようにか?」
「ああ。それを狙ってやれるのは今このタイミングしかないからな」
自分が実力以上の順位になるには、馬鹿みたいな話だが自分より優れた能力を持った選手を脱落させるしかない。そして今この状況ならそれが狙って実行出来る。これは要するに順番の問題だ。実技と筆記両方の成績が求められると言っても、実技が先に審査されるなら筆記の方が得意な選手が落とされる事になる。これは逆もまた然りだ。筆記試験が先に出るなら実技が得意な方の選手がその分落ちる事になる。
「……だとすると、頭の良い選手を集中的に狙おうとしているのは、むしろ頭脳派の選手になるな」
「ん? 何故だ?」
「決まってるだろう。自分と同じ傾向の者が減ればそれだけ接戦は無くなるからな」
……なるほどな。圧倒的に有利か不利かの状況を意図的に作るのか。裏目を引いたらと考えたら普通は自分の得意分野で勝負しようと考えるのだろうが……それは『上位』を取る事が目標の発想だ。優勝を目指すなら、有利か不利かが明確に現れるように安全策なんてやってられないだろうな。




