そんな事をするハズがない
「確かに序盤で逆転不可能なレベルで圧倒的優位に立てなければむしろ総攻撃を受ける事になるだろうな」
上手く行かなければ単純に目立つ事をしているだけになるからな。
「まあ、だからこそ開始直後の遠距離魔法を連発するという行為が意表を突ける事になったわけだがな」
「かなりリスクのある行動なわけだからな。そして、そのリスクある行動を選べるのは圧倒的な実力を持った魔術師だけに限られる。リスクを犯さなくても、堅実に戦えば順当に勝ち上がれるようなレベルの選手がそんな真似をするかと言ったら……普通はしないだろうな」
順当に勝てる奴がわざわざ危険な真似をするかという話だからな。どこに誰が潜んでいるかわからない状態で始めるバトルロワイアルで、短期決戦を臨むなんて自殺行為に等しい行いだ。いくら意表を突けると言っても、その勢いで決着まで持ち込めるような状況でなければ成り立たない作戦だ。
「ああ。普通はやらんな。そもそも射程距離と言う圧倒的なアドバンテージを持っているのだから潜伏して安全な場所から一方的に攻撃するのがセオリーになるハズだからな」
「まあ、そうなるだろうな」
「と、いう事は、序盤から勝負を決めに来るのはそういう堅実な手段では勝ち目が薄い選手という事になる。……が、そういった選手が序盤から遠距離魔法を連発するという作戦に出るのは矛盾するわけだ」
「先行で制圧……そこまではいかなくとも盤石な状況を作れなければ反撃でまくられるからな。つまりこの作戦で勝ち切れる奴はそもそもこんな作戦を取る必要が無く、逆にこの作戦でしか勝ち目を見いだせない奴はこんな作戦じゃ万に一つしか勝てない事になるわけだ。まさに矛盾だな」
矛盾するからこそ、多くの選手が『そんな事をするハズがない』と考えて対策を怠り、何よりも意表が突けるという事なのだろう。……あるいは、そんな作戦を考える事そのものがナンセンスなのかもしれないな。配られたカードを出すだけで勝てるという程圧倒的な状況なら、リスクなど完全に無視してさっさと行動に移した方が合理的なのかもしれない。……もっとも、そこまで圧倒的な実力を持った選手が各グループにいるのかどうかは知らないが、それでもヒントはある。誰がどのグループで参加するかの名簿が出される以上、実力者がどのグループに割り振られたかを調べるのは比較的容易だろう。唯一の懸念点が今年初出場する天才の存在なのだとしたら……無いと割り切って先行制圧に打って出るのもあり得る判断だ。




