ゲームのような挙動
「確かに坂道を歩いて自分がどれくらいの高低差を移動したかなんて正確に認識するのは不可能に近いな……しかもダンジョン内では周囲の景色もわからないわけだから、歩いた感覚で考えるしかない」
まず日常生活で高低差を比較する事なんて無いだろうからな。
「空間魔法を使えば高低差も把握する事は出来る。問題なのはダンジョンなどと言うどれだけ広い空間が広がっているかわからん場所を空間魔法で認識するなんて現実的ではないという事だ」
「まあ、完全に把握するというのは難しいだろうな」
「空間魔法で周囲を認識しようにも、一度の発動で認識出来るのはダンジョン全体のほんの一部だけだろう。つまりある程度移動したらもう一度空間魔法を発動させて新しく認識した空間を繋ぎ合わせる作業が必要になる。言ってみれば高さの概念があるジグソーパズルを組み立てるようなものだぞ? まともな人間にはまず不可能だ」
高低差のあるジグソーパズルか……平面でさえ難しいのに三次元になったら本当に特殊な才能が必要になりそうだな。
「ありえんレベルの空間認識能力だな。魔法の才能とは別口で必要になるのか……」
「ああ。文字通りの意味で情報の次元が違うからな。高低差が記載された地図だって、書いてあるのは地表だけだ。地中や上空の情報なんて書いてあるわけがない」
確かにそんなものが書かれた地図なんて見た事が無いな。
「だとすると、俺達の位置を特定している選手がいるとすると途方もない実力者という事になるな」
「ああ。座標を特定しているだけでも圧倒的……それに加えて周囲の状況まで把握しているのだとしたら、一国に何人いるかもわからんレベルの魔術師になるな」
「周囲の状況? 部屋の間取りとかか?」
「ああ。今の私達の状況で言えば、洞穴の中にいるのかどうかとかだ。空間魔法で座標は特定出来ても、その座標が地中なのかどうかは地形を理解している必要があるからな」
なるほどな……座標のデータがあっても、それだけでは室内にいるのかどうかもわからないというわけか。
「……じゃあ、お前も地面の下がどういう状態になっているのかはわからないのか」
「ああ。索敵内容にもよるが、基本的に私はそういうものはわからん。例えば私は今洞窟の中にいるわけだが……壁の向こう側に誰かがいるなら空間魔法で認識出来る。これは私の空間魔法に透視能力が備わっているわけでは無く、むしろ壁を認識する事が出来ていないだけだ。そのため、もしも私が転送魔法で攻撃を転送させずに攻撃を当てようとすると、壁に向かって魔法を撃つ事になってしまうわけだ」
障害物を認識出来ずに壁に向かって攻撃をし続ける……出来の悪いゲームみたいな挙動だな。




