陣取り合戦
「空間魔法の発動には魔法陣を描く必要があるから、つまり……相手が魔法陣を描いているのを自分の魔法陣で上書きしてしまえば無力化出来るってわけか」
「そういう事だ。そして私は競技が開始される前から空間魔法を展開していたのだが、特に仕掛けて来る者はいまのところいないな」
「魔法を発動していたのか? 気が付かなかったな」
「常人が感じ取る事はまず不可能なものだからな。体から微量の魔力を放出して漂わせているだけの、極めて基礎的な技術だ。周囲の魔力の流れこそ認識出来るが……それ以外のものは何もわからん。例えばこのテーブルの上に置いてあるコーヒーポットが落ちたとしても認識できん」
そう言いながらオリヴィエはテーブルの上に置かれたコーヒー用具を指さす。
「魔力の流れだけって事は、魔法を使おうとしたらわかるって事か」
「ああ。ただし認識可能なのは魔力を宿しているものだけだ。簡単に言えば、魔法の発動はわかっても発動した後の魔法は認識出来るものではない」
「……つまりこういう事か? 例えばこの壁の向こうで魔法を発動されたら気が付けないって事か?」
「私の空間魔法の射程距離は半径50メートルだからもっと先まで認識出来るが……イメージとしてはそんなところだ。空間魔法はより広い範囲に干渉できる魔術師ほど優秀とされている理由がこれだな。索敵範囲外から魔法を連発されたら発動の妨害が出来なくなるわけだ」
なるほどな。空間魔法の範囲を視覚として例えるなら、暗闇だったり霧だったりで一定以上先が見えない状態なわけか。そしてその見えない先で誰が何をしていても認識出来ないってわけか。
「空間魔法同士の干渉は認識出来るって事は……干渉されている部分とされていない部分との境界線がハッキリとわかるって事か?」
「その通りだ。そして当たり前の話だが、より大きい体積を持っている方が相手を包囲しやすい。それこそ技量差次第では相手を完全に覆い尽くす事も出来る。つまり全方位から認識不能の攻撃が仕掛けられるわけだ。これをどうにかするにはもっと高度な魔法で索敵する必要が出て来るのだが、魔力の消耗も大きくなるし、集中力も必要になるから持久戦になれば勝ち目は無くなるな」
同じ技術では格上には勝てないからより高度な技を使ってその差を埋める必要があるが、格上を相手により高度な技というのがそもそも矛盾している部分があるな。だとすると、確かに陣取り合戦と例えられるのも頷けるというものだ。




