距離の矛盾
「とりあえず……転送魔法でここに直接乗り込んで来る気配は無いって事で良いんだな?」
「ああ。今のところはな」
「なるほどな。だが、転送魔法というのは要するに瞬間移動のようなものだろ? 本気で仕掛けられたら対策なんて出来ないんじゃないか?」
瞬間移動で奇襲攻撃を仕掛けられる奴なんて防御のしようが無い。……が、本当に防御不能なら皆その魔法を習得しようとするだろう。つまり何かしらのデメリットがあるか、もしくは習得出来る人間が殆どいないかのどちらかだろう。
「圧倒的な力量差があるなら対策は無いな。だが、ある程度の範囲までなら手も足も出ないというわけではない」
「対応出来るのか」
「ああ。貴様はさっき瞬間移動のようなものと表現したが、それはほんのわずかだが誤解がある。転送とはある座標にある物体を別の座標へと移動させる事なのだが、移動そのものは貴様の言う通り、文字通りの意味で瞬間移動なのだが……問題は座標の決定だ。これにどうしても時間がかかる」
確か……魔法陣を出現させてから移動させるというプロセスだったな。オリヴィエの場合、この魔法陣の展開を極限まで短くする事で瞬間移動染みた事を実現しているわけだ。
「お前はその時間が極端に短いわけだが……お前レベルとまではいかなくとも、それに近しいレベルの魔術師ならこの大会ならいてもおかしくはないんじゃないか?」
「私と同レベルは勿論、それ以上の選手もいるだろうな。だが、それを差し引いてもここへの奇襲攻撃は困難を極める。空間魔法に距離の概念は無いが、座標の決定は距離の影響を受けるからだ」
「そうなのか?」
「ああ。そもそも私の空間魔法に射程距離があるのも、座標の決定方法が違うからだ」
なるほど確かにオリヴィエの言う通りだ。オリヴィエが手に触れている物を転送させるのは半径50メートルだ。転送魔法に距離の概念が無いのだとしたら、この制限は矛盾する。本来なら何百メートルでも転送は可能な理屈のハズだからな。




