上には上がいる
「競技開始前から他の選手の位置を特定する……トップ層なら決して不可能ではないだろう。私達も似たような事をしてたしな」
「ある程度自由に動き回れる俺達とは勝手が違うだろう」
「それはその通りだが、遠距離魔法を得意とする魔術師は半ば必然的に広範囲の索敵能力も併用する必要がある。普通は索敵役と攻撃役に分かれてそれぞれに専念するのが現代の基本戦術だが……この大会に出場する選手達ならば一人で実行出来たとしてもおかしくは無い」
オリヴィエが喋っている間もなおも爆音や閃光が鳴り響く。それでも俺達が冷静に会話が出来るのは、その音が遠くから鳴り響いているものだからだ。もっとも……それがここは安全であるという根拠にはなりえないのは恐らくオリヴィエもミーシャも理解しているだろう。何故ならこの攻撃の応酬がここから『遠く離れた』ところで行われているのではなく、俺達のいる場所を『通り越して』放たれている可能性があるからだ。
「にしたって開始直後にやるか普通? しかもこれ、一か所への攻撃じゃないだろ? かなりの人数が遠距離攻撃を仕掛けてる事になるぞ」
「それだけお互いの位置を特定しあっているのだろう。だが、もう少し待てばすぐに静かになる」
オリヴィエの言葉通り、競技開始直後にまるで雷が何十回と落ちたかのような轟音の嵐は五分もしないうちに音の間隔が伸びていき、競技開始前の静けさへと戻った。
「本当に攻撃が止んだな……これはいったい……?」
「優劣が付いたのだろう。距離が遠ければ相手の射程圏から逃げ出す事も可能だ。それか、勝敗が決して戦闘そのものが終了したかのどちらかだ」
確かに……勝ち目の無い撃ち合いをしたところで意味は無いか。どちらにせよ、こんな滅茶苦茶な事をする魔術師達の中にも確実に格の違いというものが存在するのだろう。上には上がいるとはこのことか。




