間違い
「にしても美味いなこの酒」
片方の門番が酒を飲んでいる。
「あ! なに飲んでんだこのハゲオヤジ!」
もう片方の若い門番がオッサンから酒をひったくる。
「誰がハゲだ!! フサフサだろうが!」
「うるせぇ! 黙って飲みやがって!」
そういうと、若い門番は酒を飲み始める。
しかし、次の瞬間にはせっかく飲んだ酒を吐き出してしまった。
「っ! ……! ゴホッゴホッ喉が……!? 度数幾つだこの酒!?」
「この馬鹿!! せっかくの上等な酒を! なんて勿体無いことしてんだ!」
「ざっけんな! こんなもん飲めるか!」
「普通ストレートで飲むものではないでしょ」
「じゃあなんでそんなもん差し出した!?」
「常識的に考えて勤務中に飲むとか思うわけないでしょう」
正直な話このオッサンが飲み始めた時は少し驚いた。
「お前みたいな青二才にこの酒は早すぎたみてえだな」
「ちょっとまて! なんかで割れば飲めんだろうが!」
「割る物もねえのにどうするってんだよ? お前は黙って俺が飲むのを指をくわえて眺めてな」
いや、だから勤務中に飲むなって。
「誰が渡すか! 非番の時まで取っときゃ良いだろ!」
「さては俺に黙って飲むつもりだろう、そうはいくか!」
二人は瓶を掴みながら奪い合いを始める。
「「あ」」
二人の手から瓶が零れ落ちる。
ガチャン、と音を立てて地面に落ちてしまった。
幸いなことに瓶が割れてしまうということは避けられたが、瓶にはひびが入っていた。これでは保存は出来ないな。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「ひびが入っただけです。さっさと飲めばアルコールが飛ぶこともないでしょうね」
「嘘だろ!? くそっ、よこせ!」
「馬鹿野郎! 手前じゃまた噴き出すじゃねえか!」
そういうとオッサンの方が若い門番を押さえつける。
「うるせぇ! 俺は酒を飲むんだ! 飲ませろー!」
「素面……ですよね? これ」
「くそ、なんて意地汚い野郎なんだ」
「テメェにゃ言われたかねーぜ!」
やれやれ、仕方のないやつだ。
「ちょっと飲み物買って来ますね」
「グラスがないだろう……!」
「飲み物のボトルに直で入れて、振れば良い感じに割れるだろ」
「雑過ぎんだろその割り方!?」
「せめてもの慈悲に、生ハムも買って来ますか?」
「コニャックに生ハム!? せめてチーズだろ! いや、柿ピーでもいい!」
柿ピー!? なんでそんな物がこの国に売ってんだ!? 世界観とか景観とか完全無視かよ!
「いいな!? 気の利いた肴を買ってくるんだぞ!」
「知らん、そんなことは俺の管轄外だ」
「あなた達何を騒いでいるのですか?」
不意に声をかけられた。声のする方向を見ると、一見すると執事のような格好をした若い男が立っていた。
「げ、なんでこういうときに限って見回りに来るんだよ」
「勤務中に飲酒ですか? まったく、こっちは仕事で忙しいってのに……ところであなたは?」
俺に声をかけてきた。
「通りがかりの一般市民です。是非ともボルドフ姫に謁見したいと思いまして、はるばる首都から列車で来ました」
「……何故ここにボルドフ姫がいると?」
「こっちも色々と情報を集めましてね。彼ら二人と話をして確信しました」
「お、お前まさか、はじめからそのつもりで!?」
「なるほど? それで? 姫とお会いしてどうなさるおつもりかな?」
俺は正直に答えることにした。
「まあ、お助けしようかと」
「なるほど、それは我々としても願ってもないことですが……。残念ながら姫をお助けするにはある資格が必要なんですよ」
「資格? ……すこしお待ちを、おいゲイル! そろそろ出て来い!」
俺は大声でゲイルを呼び出した。
「よう、どうだった?」
ゲイルが木陰から出てきた。
「予想通りだ。ここに捕らわれているらしい」
「そうか、じゃあさっさと助けるか」
「ところが、捕らわれの姫君を助け出すには資格が必要らしいぜ」
「は? なんで人を助けるのに資格が必要なんだよ?」
「さあな、不治の病なんじゃないのか? それなら医療免許が必要だな」
「いや、元気過ぎて困っているところだ」
どうやら違うらしい。
そもそも困っているなら俺たちの登場は渡りに船のはずだが、なぜ邪魔をするんだ?
「資格とは何です? ある程度なら取得できると思いますが」
「一応聞きますが、あなた達の中に王子の方はいらっしゃいますか?」
王子?
「いや、俺は」
「俺も王子様じゃない」
「では、残念ながらあなた方お二人には姫君をお助けする資格を持ち合わせていらっしゃらないこととなります」
なぜ、そんなことに? 捕らわれの姫君を助けるのは王子様だけってわけか?
「なんで王子様限定なんだよ?」
ゲイルが当然の疑問をぶつけた。
「あの女がそう望んでいるからです」
「なんで、誘拐犯が誘拐した人質の言いなりになってんだ?」
確かにそれは俺も気になる。
「うるせぇ! あの女がここに居座ってるんだから仕方ないだろ!」
「居座ってるって、なんで?」
「黙れ! あれもこれも全部伯爵が悪いんだ! 本当はミリア姫をさらうはずだったのに。なんでボルドフなんだよ!?
くそ! 知らなかったんだ! あの二人が実は仲がよくて、ミリア姫の城に泊まっていたなんて! それを間違えて衛兵がいるから姫がいると思って間違えて部屋に侵入しちまったなんて!」
それは……気の毒だな。
だが、自業自得ではある。
同情の余地はない。




