優勝したのは別の魔術師
「トップクラスの魔術師同士が全力で戦えば周囲の環境がどうなるかは想像がつきそうなものだが……あえて考えなかったわけか」
「そういう事になるな。どちらが勝つかでお互いの正当性やアイデンティティーが保証されるわけだからな……引くに引けない状況だったのだろう」
お互いに弟子も多いだろうからな……勝つか負けるかで今後の明暗が分かれるのは想像に難くないな。
「それぞれの派閥のトップ同士が戦うわけだからな……その結果がもたらす影響は計り知れないな。……で、どっちが勝ったんだ?」
「どっちが? それはわからんな。わからないと言うよりも記録に残っていないと言った方が正しい。その年に優勝したのは別の魔術師だったからだ」
「大事故を引き起こした魔術師は両方とも敗退したのか? 共倒れでもしたか?」
「さあな。何せ信頼性のある資料が殆ど残っていない」
「だが、事故を引き起こしたのが誰なのかはわかっているんだろう?」
さっきまでの口ぶりだと、誰と誰が戦った結果大事故が発生したかが判明しているように聞こえる。普通、決勝戦で発生した事故だと思うが。……と言うより、決勝戦でなかったらその後どうやって優勝者を決めたんだ? という疑問が出て来る。
「ああ。それはわかっている。もっとも、その戦いがどのような形で決着を迎え、その後どうやって優勝者を決めたのかについては記録が殆ど残されていなかったがな」
「何もわからないという事か」
「ああ。わかっているのは最終的に誰が優勝したかだ。これはちゃんと記録に残っているし、大会の後でそれぞれの派閥からの反発や抗議も無かった事から、何かしら明確な根拠があったのだろうな」
確かに言われてみたら妙だな。そんな大事故が発生したら普通は大会どころじゃない。即座に中止として事態の収拾に奔走するハズだ。ところが、その後も大会が続き、その結果に他の選手からの反発も無かったという事は、審判も普通に生き残って、次やる競技の事も把握している状況だったという事か。




