まず選択肢に入らない
「まあ、隠れながら戦った方が良いというのはその通りだな。空中戦の利点は相手によっては安全地帯を確保出来る事にあるのだが……ちゃんと身を隠せるのであれば安全性は大差ないからな」
同様の安全性を確保できるのであれば、わざわざ空を飛ぶ必要が無いというわけか。
「じゃあ、空を飛べる魔術師は殆どいないってわけか」
「ん? いや、そういうわけではないぞ? 空を飛ぶ魔法それ自体は有用だからな。それを戦闘用に……正確には攻撃のために利用出来る者が殆どいないという話だ」
「攻撃出来ない……? 空を飛ぶ魔法とは別に攻撃用の魔法が必要になるからか?」
「まあ、半分はそれで正解だ。残りの半分は間合いの問題だ」
「自分の攻撃が相手に届かないって事か……」
俺の言葉にオリヴィエが頷く。
「そうだ。仮に10メートル上空を飛んでいるとしたら、相手に攻撃を当てるには10メートルの射程が必要になるわけだ」
まあ、当たり前と言えば当たり前の話だな。
「だが、物を落とすだけなら射程距離は関係ないんじゃないか?」
「確かにそうだが、その場合攻撃範囲は自分のほぼ真下に限定されるんだぞ? 相手が飛び道具を持っていたらどうするつもりだ?」
「空中戦を仕掛けるメリットが薄れるわけか……」
「そういった点から、空を飛ぶための魔法は基本的に逃走用に使われるのが殆どだ。……で、そういった魔法への対策として、空中での接近戦を訓練する魔術師もいる」
基本逃げると言う選択肢しか存在しないから、空中で攻撃する手段を持っていれば一方的に戦えると言うわけか。
「なるほどな。だが、そういう戦い方を身に着けても実際に空を飛んで逃げている魔術師がいなかったら徒労に終わるよな?」
「ああ。そこは読み次第だな。どういう魔法を使う魔術師が多いのかを読んでその対策をしていくわけだ」
メタを読むってやつか……年に一回、今後の人生が決まるような大会で当たり外れの大きい戦術は……選べないだろうな。
「空中での接近戦が活躍するには、空中へ逃げる敵が多い事が前提になるわけか。良くも悪くも相手に依存する点は無視出来ないな。……ん? お前確か、レイピア持ちながら空中戦してたよな?」
俺はオリヴィエの戦いを思い出す。確か空を飛びながらレイピアを振るっていたハズだ。
「ああ。空中での接近戦は逃げた敵への追撃に用いるもの……つまりは逃げへの対策だ。これを迎撃するのは対策の対策を備えた者か、空中戦が得意かのどちらかだ。どっちにしても数は少ないだろう」
対策でさえ役に立つかどうかわからんのに、それへの更なる対策か。並みの読みと度胸じゃまず選択肢にすら入らないだろうな。




