慎重になる必要は無い
「リスクを恐れる必要は無いという貴様の意見はわかるが……私に限って言えばそうとも限らんのだぞ? 何せ私が落ちると百点が追加されてしまうからな」
なるほどな。確かにオリヴィエの言う通り、他の審査官と比較して得点が十倍に設定されているのだから慎重になった方が良いという考えもわかる。だが……恐らくその心配はあまりしなくても良さそうとも言える。
「ああ、それだが……あまり気にする必要は無いハズだぞ?」
「何? どういう事だ?」
「この競技のルールは要するに誰を倒したら何点貰えるって計算式で成り立っている。重要なのは、その選手が保有しているポイントが他の選手に移動する事は無いって事だ」
不思議そうに尋ねて来るオリヴィエに対し、俺は競技のルールを確認する。
「まあ、そういう事になるな」
「つまり、仮にお前が倒されたとしても得をするのはお前を倒した一人のみだけとなる。お前を倒そうとしていた他の選手達は大損なわけだな。それに何より、お前を倒した選手がその後他の誰かに倒される事になれば、下手すれば上位百名まで残れない可能性まで出て来るって事だ。……で、ここからは想像になるが、お前が誰かに倒されるとして、それはいったいどういう状況になると思う? 一騎打ちか? それとも周囲に人間はたくさんいるのか……? わかっているのは、ルール上より多くの点数を持っている者が上の順位になるわけだから、より多くの得点を保有している選手を積極的に倒していった方が効率が良いわけだ」
そう、つまりは百点のボーナスを貰った選手はあまりにもトップ通過する可能性が高すぎるが故に他の選手からの集中攻撃を受ける可能性が出て来てしまうわけだ。何せ自分より上の順位の選手が脱落してくれれば自分の順位が繰り上がりで一つ上がるわけだからな。
「つまり、百点のポイントを手に入れるために私を狙っていた選手達が、今度は百点のポイントを潰すために私を倒した者を倒そうと動くわけか?」
「ああ。そいつがよほどの実力者か周囲の人間全員がチームを組んでるとかでもない限りはターゲットは一気に集中する。ある意味、早い者勝ちのボーナスよりも、お前が脱落しているかどうかよりもそいつが脱落しているかどうかが自分の順位に直結するから、一時的な協力態勢にすらなりえるぞ」




