大砲の設置
「確かに痕跡を残すのはマズいかもしれないな……だが、戦闘中に不意打ちで砲撃するというのは案外良いアイディアかもしれんぞ」
「味方ごと撃つって事か?」
まあ、確かに悪くは無いな。発射される射線とタイミングさえ把握していれば一発逆転の策になりえるだろう。
「ああ。私ならば空中へ逃れる事で直撃を避けられるからな」
「理論上相性は悪くないな。だが、そんなものは机上の空論だぞ? 何の訓練も無しに成功するような連携技では無いな」
射線とタイミングさえ合えば……と言うが、その射線とタイミングをどうやって完璧に同期するかって問題に直面するのが目に見えている。一瞬でもタイミングを間違えれば、僅かでも弾道がブレれば大惨事になりかねない危険な技だ。逆説的に砲手には熟練の業が要求される。しかしそんなものはこの中の三人の誰にも備わってはいないのだ。
「やはり大砲の用途は威嚇射撃に留めておいて、それで発生した隙を私が突くという策にしておいた方が良さそうだな」
「それが良いだろうな」
「とすると、次に決めるべきなのは大砲の設置場所と射角だな」
「どういう風に飛ぶってのはある程度は知ってるのか?」
「だいたいの目安ならついている」
そう言いながらオリヴィエは一冊の本を取り出す。
「それは?」
「大砲のマニュアルだ。湿度や気温、気圧などで軌道は大きい影響を及ぼすと書いてあるが、今回は射程距離が短いので考慮しなくても良いだろう。そんな高度な計算など出来ないしな」
確かにそういうのは突き詰めていけば物理学の話になる。今から勉強しても……競技までには間に合わないだろう。
「じゃあ、後は大砲の角度と使う砲弾と火薬の種類か」
「全てヴィンクラーで取り扱っているメジャーなもので揃えている。特に問題は無いだろう」
そう言いながらオリヴィエは転送魔法で独特な形状の定規を何種類か取り出すと、マニュアルと地図をそれぞれ見比べながら定規を組み合わせていく。
「それで何かわかるのか?」
「ああ。この定規が弾の軌道を表していて、これに距離と丘の高さを代入していけば大体の角度が求められる。後は大砲をちゃんとその角度に調整出来るかという話だが、水平器がついているからそれで目盛りを合わせれば何とかなる。東西南北の方向は……まあ、頂上に向ければ良いだろう」
最後だけ目分量かよ……? 角度が一度でもズレたら100メートル先では1メートル半は軽くズレるんだぞ? ……測量が出来なきゃ地図をもとに正確な位置の特定なんて出来ないんだから仕方ないか。




