微調整はしない
「どうだ? 設営は終わったか?」
俺がテントの設営を開始してから少しすると、カメラの設置を終えてきたのであろうオリヴィエが俺に話しかけてきた。
「ああ。今終わったところだ」
「それはタイミングが良いな。なら次はギアを置いていこう」
そう言いながらオリヴィエは水晶玉を置き始める。
「それは?」
「カメラで撮った映像を受信するための水晶だ。これに頂上の景色が映り込めば設置成功だ」
「……ギアってキャンプ用品に対して使う言葉じゃないのか?」
俺は素朴な疑問を聞いた。まあ、害獣対策とかで監視カメラを設置する事はあるかもしれないが……にしたってそれをギアとは表現しないだろう。
「良いだろ細かい事は。気分だ気分」
「そういうものか」
そもそも俺達がやってるのはキャンプじゃないんだからギアって表現する事そのものが間違いなんじゃないのか? という疑問もわいてきたが、これは聞かない事にした。これこそまさに議論する程でもない細かい事に相違ないからだ。
「これでちゃんと映れば……良し、問題無いな」
水晶玉からはどこの景色かはわからないが、確かにそれらしい映像が映し出されていた。
「じゃあ、次はこの地点に照準を合わせて大砲を設置するのか」
「ああ。とは言っても、本当にこの位置に合わせると着弾の衝撃でカメラが吹き飛ぶかもしれんな。言い訳するわけでは無いが、大砲の照準はもっと別の場所に合わせた方が良いのかもしれん」
「だとすると、カメラの画角に合わせた地点に合わせた方が良いだろうな。着弾を確認出来るか出来ないかは天と地ほどの差がある」
「ふむ、カメラの画角に収まっていて、それでいて敵が映り込むであろう場所か……やはり山道になっているこの辺りか?」
山道か。ここを大砲でクレーターみたいな大穴を空けると翌日以降にここを通るであろう一般客への迷惑がとんでもない事になりそうだが、他の審査官も選手達もそんな事を考慮している余裕は無いだろうから多少破壊してしまっても大丈夫だろう。運営だって余程の馬鹿でもない限りはそれくらいの被害は前提でここを競技場所に選んでいる事だろうしな。
「そこを狙った方が良いだろうな。まあ、素人の腕じゃ狙ったところに着弾するか怪しいところだがな」
大砲はあくまでも陽動作戦だ。相手の気を引く事さえ出来れば上々と言ったところだろう。そういう意味では精度はそこまで重要では無いと言えるだろうな。
「どうする? 試し撃ちでもして微調整するか?」
「そんな事したら頂上で大穴が空くだろ。頂上で戦闘している最中に大砲で不意打ちを決めるならともかく、威嚇射撃でそこまでの精密さは必要無いハズだ。それよりもそこを通った奴に手がかりを与えかねない事の方が重大だ」
こっちが不意打ちを仕掛ける前に相手に警戒されてしまったら元も子もないからな。




