消去法の作戦
「なるほどな……倒す価値が無い標的だったとしても、倒せる状況だったら倒しに来る可能性はあるのか」
「ああ。無理して倒しに来ないってだけの話で、無理せずに倒せるならとりあえずで攻撃して来る可能性は普通にあるからな」
ゼロ点の標的に生き残られてもシンプルに邪魔なだけだろうからな。安全に倒せそうならさっさと倒してしまおうと考える選手はいるだろう。
「確かに不意打ちでなら一撃で倒せるという状況なら仕掛けて来る選手はいそうだな。しかし、一撃で倒せそうにないとなると、一気にその数は減りそうだ」
「一撃で倒せなければ反撃が来るのはわかり切っているからな。俺を倒せたとしてもそれで消耗したら割りに合わないだろうし、それが原因で他の選手に倒されるなんて事になったら最悪だ」
「とにかく選手の方から近寄られないように装備を固めるのか。悪くない作戦だな……貴様が敵をけん制するなら、当然ミーシャもその恩恵を得られるわけだ。遠距離攻撃に専念出来るのなら隙が無い」
そう、俺かオリヴィエのどちらかがゼロ点の標的になる以上、どちらかは戦闘そのものを避けられる事になる。さらに付け加えるならば、風霊祭で優勝した俺達を相手に接近戦を仕掛けて来る選手はほぼいないと言ってしまっても良いだろう。この二つの点を考えた場合、そもそもまともな戦闘が発生するのかどうかも怪しいというレベルだ。こっちとしてはより上位の選手を倒したいわけだから……一方的に攻撃を仕掛ける事が出来る状況を作らなければ順当な終わり方をしてしまうだろう。
「俺相手に接近戦を仕掛けてくれる選手がどれだけいるかわかったものじゃないからな。遠距離戦になるって前提で作戦を立てておいた方が良いだろう。お前だって、狙われるとしてもわざわざ近接距離で戦ってくれる選手は少ないと思うが……何か考えはあるんだろ?」
「考え……と、言うよりも消去法で一つしかないな。目立つ場所を歩いているだけでは確実に先手を取られる事になる。その都度反撃しても良いのだが……射程の差で不利を強いられるのは自明だ。となると、私の方が先に敵を補足して急襲を仕掛ける必要がある。つまり、空中戦だ」
「空を飛んで戦うって事か? まあ、決勝でやったみたいに戦えれば、対処される前に制圧する事も出来ると思うが……あれは確か相当魔力を消耗するって話じゃなかったか? だから出し惜しみする必要の無い決勝戦でだけやったハズだが……今度の競技は制限時間三十分じゃないんだぞ? 本当に終盤まで持つのか?」
次の競技は広いフィールドを何時間もかけて生き残るサバイバル戦だ。空中戦で急襲するって事は燃費も最悪レベルのものになるハズ……終盤どころか序盤でバテるまであり得るぞ?
「無論考えはある。私自身の装備はとにかく軽量化を優先し、魔力の余計なロスを抑える。故に補給物資等は全て貴様のいる所に放置し、攻撃が成功し次第、その度に帰還して休憩を挟む。貴様の周囲には敵が集まらないだろうと考えれば、最も大きい隙を晒す着地の瞬間に襲撃を受ける心配も無いだろう」
いわゆる着地狩りの隙を俺がカバーするって事か。




