可能性の話
「そうか。全くわからんな」
「あんなもん授業でも習わんからな。写真で微生物なのはわかっていたが……間違いの方は原始生物の名前だったのか」
生物の学名なんて、ありふれた動物の名前だったとしてもわからないものが大半だろうからな。ましてや馴染みの無いような生物ともなると、一般的な名称すらわからないだろうな。
「あまり自信は無いけどね」
「俺達全員合わせてもその認識じゃ、自信を持って解答出来た選手が殆どいなかったのも無理は無いだろうな」
「まともな筆記試験なら上から数えた方が早いからな。それでわからないなら、一般的な同級生に解ける問題では無いな」
まあ、二択問題の上に問題を解く選手の水準が大人を含めてトップ層だという事を考えたら、それくらい滅茶苦茶な問題が出ても何ら不自然では無いという事だろうな。
「ますます解けた理由がわけわからんな。流石に地力じゃ解けないよな?」
「無理だろう。部長だって生物学は専門じゃないだろうからな。……いや、環境大臣の令嬢だからわかるのか? ……あの生物が何か重要なものだったり、錬金術に用いる素材だったりしない限りは解けないだろうな」
「……図鑑を持ち込めたとして、制限時間までに探し出せるか……? 名前から探せばいけるか……?」
原始生物の名前を検索して、全然違う生き物の写真が出てくれば消去法でもう片方が答えだとわかるわけだが……理論上は可能か。
「確かに図鑑を持ち込んではいけないというルールは無いとは思うが……事前に持ち物検査くらいはするものだと思うぞ」
「いや、図鑑を持ち込むのは観客の方だ。そこからどうにかして暗号を送れれば……」
「あの観客席の中からか? 色のついた発煙筒でもたかないと……VIP席からなら暗号のやりとりも可能か……?」
VIP席か……確かにそこからなら選手側から見てわかりやすい位置にあると言えるな。VIP席から答えを教えてもらうカンニング……出来そうな気もするが、運営だって馬鹿じゃないんだから普通にバレそうだな。
「俺から言い出しておいてアレだが、運営だってそういうのはチェックしてるよな?」
「ああ。過去にありそうだしな。それでも出来るか否かで言えば出来るだろうな。もっとも、やるかやらないかで言えばやらないだろうが」
「物理的には可能なのか……?」
通信装置か何かを使っても探知されそうな気がするが……まさか何百メートルも離れた人間の唇の動きから読唇術でカンニングするなんて無茶苦茶な話じゃないだろうな……? そんな超人だったら確かにバレようが無いとは思うが。




