魔王軍の初期の認識
「初期段階では国が本気を出せば何とかなる。そう思われていたのか」
「どこまで本当なのかは私にもわからんがな。だが、最初のうちは偵察や斥候を派遣して情報収集するのが戦略と言うものだ。魔王もそこのところは理解していたようで、まず最初に現地の魔物を襲撃して戦力として組み込んだようだな」
「現地の魔物ってのはつまり……魔王の配下じゃないって事か?」
「そうだ。まず最初にそいつらを戦わせて人間側の戦力を知ろうとしたわけだな」
万に一つ負けたとしても、自分のところの戦力は傷付かないってわけか。様子見としては最適な行動だな。
「それで、その初期段階での戦いはどうなったんだ?」
「現地の魔物がただ闇雲に襲撃して来るだけの事だ。基本的には人類側の優位だな。ただ、策が無いにしては不自然な程の規模の魔物が同時に襲撃して来た。そこに疑問を持つべきだったのだろうな」
なまじ上手く防ぎ切れてしまった事であまり事態を深刻に捉える事が出来なかったのか。
「……ん? じゃあ、その結果から魔王軍の規模はそれ程でも無いと誤認したのか?」
「いや、厳密にはその時点では魔王軍どころか魔王の存在すらも認知されていない。突然魔物の襲撃が同時多発的に発生するという異変が起きたと言う認識だったハズだ」
そうか。今でこそ魔王の存在は周知の事実だが、それでも過去に遡れば魔王を知らない時代というものはあると考えるのが自然か。
「じゃあ、魔界の存在も……?」
「ああ。魔界だとか魔王だとかの存在を人類が知ったのはもう少し後になってからだ。それだって、限られた人間が知るだけで、当時の人類の大半は知らなかったと思うぞ? 何せ人類の生活圏の外の調査なんてどこまでやってたか甚だ疑問だしな」
山の上には神様が住んでいるとか、そういうレベルの認識か。まあ、誰も行った事が無いんじゃ想像で語るしかないだろうな。そして人類の生活圏の外側には魔物なんて言う明確な脅威が存在しているわけなんだから、突然魔王がどうのこうの言われたところで、魔物の住処の地続きの存在としか想像出来ない事だろうな。とてもじゃないがそれだけで魔界だとかそういった空間……世界があるとは思いもしないハズだ。そういう意味では、地理的な情報量では魔王軍に最初から負けていたわけだな。