競技中の魔法
「優勝候補同士が何か話し合っているのはわかっても、それに聞き耳を立てるのは現実的じゃなかったわけか」
「それはそうだろうな。あのレベルの魔術師を相手に魔術的な方法で盗み聞きするのは現実的に考えてありえない。そうなれば超人的な聴覚で聞き取るしかないという事になるのだが……そんな真似が出来る選手なんてそう何人もいるとも思えんからな」
人混みの中から特定の人同士の会話を聞き分けるなんて芸当、常人には到底真似出来ないだろうが、やってのける人間が一人か二人はいてもおかしくは無いだろうな。
「トップ層が示し合わせるために行った会話を、他の誰かが聞いていたとしてもおかしくはないとは思うが、その数はかなり少ないだろうな。そして、その情報をわざわざ拡散する必要も……いや、と、言うか、人混みの中じゃまともに会話するのも簡単では無いな。情報の拡散はそもそも無理か」
冷静に考えれば、人混みの中から特定の人間同士の会話を聞き取るのも難しい話なら、その情報を周囲の人間に伝えるのも難しいな。
「まあ、仮に伝えられたとしても、本人が直前まで移動しようとしないんだから相手にされないだろうな」
「普通はすぐ近くにある場所まで転送魔法で移動しようとするなんて思わないだろうからな。……と、言うか、あの競技中に魔法を使うのってルール的に大丈夫なのか?」
「用途はあくまでも急に選択肢を変えたくなったという、真っ当な理由だからな……人混みをかき分けて移動をしていては間に合わなかっただろうと考えれば、あまり変な行動では無いだろうな。勿論、魔法で他の選手に危害を加える危険性があるのでは認められないだろうがな。例えば、転送魔法で他の選手を別の選択肢の方に送り飛ばしたり、逆に引きずり込んでしまった場合等だ」
確かに他の選手の選択肢を強制的に決定させてしまうわけだからな。これは明確に危害を加えていると考えても良いだろう。
「二者択一の問題で他の選手を追い出すと言うのは、やって良い事とは認められないだろうな」
「そんなのを認めたら追い出し合いになってとてもじゃないがあんな狭い場所で密集させるなんて真似はさせられないだろうな」
それはそうだろうな。あんな人が密集している中で争いになったら大惨事になる。そうなったらとてもじゃないが競技どころではなくなってしまうから、そうさせないようにルールを決める必要があるだろうからな。




