負け知らずは参考にならない
「地元じゃ負け知らずでもあの会場の中ではそういうのが当たり前ってわけか」
むしろそういう連中が集まっているのがあの大会か。
「地元どころか、国内でも負けを経験した事の無い魔術師がいたとしても不思議では無いな。もっとも……今日も明日も無敗でいられる者がどれだけいるかは知らないがな」
「……少なくとも、一人は残るんじゃないのか? 無敗でいられる奴は」
「そんなわけがないだろう。負けた事のある者が優勝する可能性があるのだからな。それに、三本勝負のように敗北が許される競技が今後出て来る可能性だってある」
「確かに……少なくともではなく、最大でも一人しかいないという事になるのか」
この最大値は……現実的では無いな。人間必ずどこかしらで何らかの形で負けた事があるハズだ。
「さらに言わせてもらえば、負け知らずの大半は……いや、殆ど全員が『まだ』負けた事が無いという連中だ。文字通り本当の意味で負けを知らない者などこの世に一人でもいるかどうか怪しいものだろう」
「まあ、負け知らずが二人いたとしても、その二人を戦わせれば確実にどちらか一方は負けを知る事になるわけだからな」
「そういう意味では、負けを知らないのはあまり参考にはならないな。少なくとも去年の大会には出場していないハズだからな」
「去年の優勝者は何度か負けを経験した事があるのか?」
「ある。……と、言うか、直近の数十年間は無敗の者など一人しかいない。トップ層が優勝の奪い合いだからな。無敗でいるその一人だって、優勝してから一度も大会に出場していないだけだ。だから厳密には負けたところを確認されていないだな。もしかしたら、どこかで誰にも知られる事も無く敗北を経験しているかもしれないぞ」
戦わなければ無敗でいられるって理屈か。屁理屈みたいな話だが、真理ではあるな。
「負け知らずはあてにならないってわけか。まあ、一位と二位に隔絶とした差が無い限りは確実にどこかで負ける事になるわけだからな……流石にこの大会でそこまで圧倒的な実力を持った魔術師はいないわけか」
「その言い方だと語弊があるが……まあ、そういう事だな」
圧倒的な実力を持った魔術師は勿論いるが、それと同等の実力を持った者も勿論存在しているわけだ。そんな連中が戦ってどちらか一方のみに軍配が上がり続けるって事は……まあ、ありえないだろうな。