回復魔法の使い手の少なさ
「パーティでの行動を前提にした魔術師なら、回復魔法を重点的に習得している者がいてもおかしくはないな」
「そうだな。パーティ全体の人数が増えれば増える程、回復役の必要性は増してくる事になる」
俺の言葉にオリヴィエも頷く。人数が多くなればなるほど役割分担はやりやすくなるからな。
「だが、数は少ないんだろ? 火霊祭で勝ち上がれない系統ってだけでも避けられそうだな」
「それは大いにあるな。火霊祭で勝てないという事はそれだけで出世の道から外れる事になる。最初からそれを理解した上で回復魔法に特化するというのは……厳しい選択になるだろうな」
「医者とかなら成り立つか……?」
「いや、厳しいだろうな。医者は医者で出世争いがあるわけだから……やはり火霊祭での成績は重要視される」
医者の世界も似たようなものか。……まあ、医者ならなおの事顕著に表れるかもな。
「じゃあ、医者は戦闘能力も重視されるのか。そこまでくると笑えて来るな」
「笑い事ではない。医者の出世も火霊祭での成績が関わってくるせいで、回復魔法の使い手が殆どいないという社会問題を発生させているのだ」
「だが……医者なんてわかりやすいエリート職だろ? それが少ないなんて事になるのか?」
「少し勘違いしているようだな。私は別に医者が少ないと言ったわけではない。回復魔法の使い手が少ないと言ったのだ」
……つまり、回復魔法を使えない医者が多いと言うわけか。職業と使える魔法の種類との噛み合いを考えると……あまり喜ばしい状況とは言えそうにないな。
「回復魔法以外で医者に向いてる魔法もあるのか?」
「無いって事は無いが……遠回りではあるな。本当に笑えないのが医者になってから……或いは火霊祭で優秀な成績を出してから回復魔法の習得を始める者が後を絶たないという点だ。これのせいで下手をすると田舎の方が名医がいるという状態が発生していたりするわけだ」
都会の医者は医者とは関係の無い技能ばかり伸ばしているってわけか。確かに社会問題と言っても過言では無い由々しき事態だな。
「田舎なら出世争いも無く、好き勝手に回復魔法を習得する事が出来るってわけか」
「そういった考え方もあるが、現実的には医者が必要だから回復魔法を習得するというパターンもある。つまり、パーティ単位で回復役に徹するのではなく、村単位で回復役という役割分担が行われているわけだ」
なるほどな……確かに小さな村だったらその村に永住する医者というのはほぼ必須になる。つまり、戦闘専門の村人と回復専門の村人に別れるわけか。




