自分のためが普通
「余程ずば抜けて優秀な奴でもない限りは、妨害目的での引き抜きはそれほど効果的とは言えないだろうな」
「向こうだって欲しい人材は積極的に集めようとするわけだからな。その全てを引き抜くのは現実的とは言えんな」
まあ、求人……というものがあるのかどうかは知らないが、人手が足りなかったら補充するのが組織のあり方だ。
「一人や二人ならともかく、十人も超えたら自分のところでの人材に偏りが出てきてしまうわけだからな……まずいだろうな」
「そういうのが増えれば増える程、向いていない仕事が割り振られていくわけだ」
その部署の人間が増えて行けば、新しく入って来た者は別の部署へ移動になるハズだ。問題なのはそこがそいつにとって良い環境かどうかだな。
「相手の妨害のためにそこまでやったら、ライバルより先に自分達が脱落する可能性だって浮上するぞ」
「それはやるべきでは無いという結論になるな」
向こうが自分にとって必要な人材を探している時にこっちも必要な人材は探している状態のハズだ。それとは別に引き抜きなんてやってたら組織の構成員に歪みが生じる事になるだろうな。
「並みのレベルは引き抜いても無駄に終わる事になるだろうな。やはり妨害目的での引き抜きは現実的な策じゃないな」
そもそも、ライバルと一言で片づけているが、実際にはライバルと呼ぶべき相手は一つだけとは限らないからな。それを考えたら相手の妨害よりも自分の成長を目的に人材を集めた方が健全だろう。
「まあ、自分も停滞するが、相手はもっと停滞させるというのが目的だからな。自分の方が停滞するようになってしまってはならないわけだな」
「言ってみれば奇策の類だな。自分の成長のために人材を集めるのが普通だ」
やはり、下手をすれば共倒れになりかねない策は選びにくいハズだ。
「……まあ、長々と話を続けたが、殆ど何もわからんというのが実情だ。明日の事は明日の説明を聞いてから考えるしかないな」
「わからないと言っても、結局は戦闘に関する競技になるハズだから、詳細なルールを聞いて、その後ですぐに良い策を思いつくかどうかだな」
「一筋縄ではいかないだろうな。しかし、私達審査官同士は徒党を組めるが、相手の選手達は組むか潰し合うかも判断せねばならないから、負担は向こうの方が大きい。そこの違いをどれだけ押し付けられるかだな」
そう言うとオリヴィエは立ち上がり、部屋から出る準備を始めた。




