ネガティブな勧誘
「上手く行けばどれだけの金をかけても手に入らないようなものが手に入るが……そもそもの上手く行く確率ってのがゼロに等しいレベルだろ?」
「それはそうだろう。学生でなくても同じことだ。だからこそ実力を正確に測る必要があるわけだ。そういう意味でも学生を狙うのはアリな選択だな。いかに素早く優秀な人材を見つけ出すかと言う問題もあるが……そこはどれだけ関係者と仲良くなっておくかだ」
まあ、天才の噂を聞きつけて会いに行ってみたらすでに大量の人間に囲われていましたじゃ話にならんからな。まだ誰にも注目されていない時点で見つけ出す必要がある。
「教師がギルドやらそういう組織に生徒の情報を流すのか?」
「言い方は悪いが、そういう事だな。それに、情報源は教師に限った話ではない。学生だって立派な情報源だ」
「学生だってギルドに所属出来るわけだしな……」
上手く行った時のメリットを考えれば、より優秀な学生の情報は欲しいだろうな。
「学生から情報を聞き出して勧誘するわけだ。こればかりは綺麗事を言っている場合では無い」
「勧誘した奴全員が大成するとは限らないが、一人でも多く雇えばその分確率は上がるわけだからな……」
「そういう考え方も出来るが、もっと別の理由から勧誘する場合もある」
「別の理由?」
自分の利益を追求する以外に勧誘する理由があるのか?
「簡単な話だ。ライバルに成功されないために有望株を確保しておくわけだ。これならライバルは二位以下の人材で勝負をかけるしか出来なくなる」
「……随分と、ネガティブな勧誘だな」
「スマートなやり方とは言えないが、しかし、予想は立てやすい。最高の人材を自分の手中に収めてしまえば、相手は次善の人材で勝負するしかなくなるわけだからな。そうなってしまえば、戦いのレベルは下がらざるをえなくなる。天才の行動は読めんが、凡人の行動なら読み勝てるかもしれないだろう?」
自分にとって利益のある人材を確保するのではなく、自分にとって致命傷になりかねない人材を確保するわけか。
「雇う奴の性格が如実に表れる策だな。それは優勢な側にしか取れない策だろ」
「敵が必要としている人材を予め回収しておくという話だからな。自分のところで燻っているだけでも意味はあるが……それでも負担が増える事に変わりはない」
「せっかく雇った最高の人材を腐らせてしまってもやむ無しってわけか? 誰も得しないな」
ライバルに勝たせないためという理屈では有効だろうし、自分が負けないためと考えれば悪くない策だ。しかし、そのために最高の人材を活用しないという発想は、賢いと言えるのかどうかは怪しいところだな。




