数十年間に渡る取引
「なるほどな。戦争に負けたとしても国がその後も残り続ける事を考えれば、取引を続ける価値はあるわけか。目先の利益だけにとらわれない事が肝心と言うわけか」
「ああ。単純にどこかの国を侵略するための武器が欲しいと言う注文なら注文通りに武器を揃えて渡すだけだが、守るためとなると話は違う。より効果的に国や領地を守るには城壁や地形を利用した防御網を構築する必要があるわけだが……それによって必要になる武器は大きく変わる。しかし、それを正確に把握するという事は、とどのつまり国の防御網を教える事に等しいわけだ。そんなものは数年の付き合いでは築けんよ」
国の防衛か……確かにそれだけは他の国に知られるわけにはいかない情報だ。しかし、そこを悟られないように武器を調達するというのは至難のものだろう。
「友好的な国や領地に限るだろうが……防御網の情報を他人に教えるのは並みの信頼関係では無いな。しかもそういうのは単純な武器では無く、かなり複雑な構造をした高度な兵器の類だろ?」
「そういう注文もあるらしいな。私も良くはわからんが……だが、一般的には銃や弓矢……あとは杖や魔導書のような飛び道具の注文が多いらしい」
「まあ、城壁で囲っているなら飛び道具が必要になるのはわかる。だが、それは前衛を最小限に抑えて兵士を運用出来るという事でもあるからな……かなり完成された拠点だろ」
未完成な拠点だと剣や盾……後は槍を揃える事になるからな。前衛は自力で間に合っているという時点でかなりの戦力がいる事になる。
「そういう事になるな。どれもこれも数十年間以上も前から定期的に取引を行っている相手だ。つまり、それだけ長い期間に渡って敵からの侵略を許していないという事を意味しているわけだな」
まあ、侵略なんて急激な変化があれば注文の内容か頻度に何かしらの変化は出るだろうからな。
「定期的な取引って事は……新兵器の導入だとかそういう性質のものじゃないな。武器の損耗による補充ってところか。数十年間に渡って定期的な武器の補充だけで間に合っているとなると、かなり安定した土地って事になるな」
「概ねその通りだな。ただし、取引されるのは対魔物や狩りに用いるようなものではなく、対人戦に向けて設計された武器が大半を占めるから平和な環境というわけではないな。あくまでも撃退出来ているだけだ」
そんな状態を数十年続けられるって方がおかしな話だと思うがな。




