みんな損をする
「……まあ、どうにかして難癖付けて取引を無効にしたいだろうな」
もう使い道が無くなってしまった武器をわざわざ金を出して引き取るというのは出来る事なら避けたい事だろうからな。むしろ不穏分子の手に渡る可能性まで考えたら多少強引な手段を使ってでも取引は中止にしたいだろうな。
「そうだな。今後どういった事に金を使う事になるのかわからない状況下で無駄な出費は避けたいハズだ。そして何とかしてそれを避けたいのは当事者だけではない。講和をしている相手国もその周辺国家だって避けたいわけだ」
「損をするのは武器製造の関係者だけか」
講和やら復興やらで金が必要だって時期に現金が目減りするような真似は誰だってやりたくはないだろうな。
「ああ。そういう状況になってしまえば、実質的に取引を無効にする方法は幾らでもある。まず講和会議中に武器の取引をする事は出来ないとでも言えば、取引を先送りに出来るし、そこで賠償金の話をまとめてしまえば、後は金が無いと言って取引を先送りにしまくる事が狙える」
「そんな事をして大丈夫なのか……？」
「当然、周辺国家を味方につける必要があるな。だが、不安定な情勢の中に武器を持ち込むなんて行為は大概の国は非難するからな……まあ、後々の事を考えれば泣き寝入りをするしかないな」
「お前の感覚だと泣き寝入りになるのか」
まあ、オリヴィエの場合は同業者になるんだからそっちの立場で考える事になるのか。
「ん、それは、まあな。下手に取引を強行すれば敵を増やす事になるし……為替相場の変動を考えれば実際に取引を行っても得られる利益も少なくなる可能性が高いしな」
「不利な側だったら相場は下がるだろうな。わざわざ値下がりした通貨で取引すれば損をするのはわかりきった話だ。という事は……」
「取引を無効にせざるを得ない……という事になるな。つまり大量の在庫が残るわけだ」
まさか為替の話まで出て来るとはな……いずれにしても、武器の取引が全員にとって損になりかねないわけか。
「それらの在庫は別のどこかで売り捌く事になるわけか」
「ああ。武器を誰彼構わず売れない理由がこれだ。需要を読み間違えると一気に在庫の山を抱える事になるからな。両陣営に取引しないのも、どちらかの陣営もしくはその両方で問題が起こるからというのもある」
「勝つ方と取引した方が良いってわけか」
「いや、必ずしもそうとは限らんぞ。さっきも言ったが、戦争が終わった後の事も考えて取引をしていれば、あるいは防衛費という名目である程度の在庫は処理出来るからな。重要なのはどれだけ長く定期的に取引を続けられるかだ」
毎回毎回いろんなところに営業をかけるよりも固定客を作った方が良いって事か。流石に武器で大金持ちになっただけの事はあるな。
