終わった後の問題
「戦争になっても自分は安全だから売ったって……? 理屈としてはそれで正しいのかもしれんがな……それは物理的に距離のある場合に限るだろ普通に考えて」
いくら自分は安全だからって、国内に被害が出る事は避けるだろ……万に一つ負けて自分のところにまで攻め込んで来たらどうるするつもりだ?
「普通はそうだが、そんな普通の発想では金儲けは出来ないという事だろうな」
「……お前の家も武器を売ってるみたいだが、隣の国にも売り捌くのか?」
「馬鹿を言うな。方角次第では攻撃の対応をするのはこっちなのだぞ? いくら我が国が中立とは言え、売る相手位は考えている」
まあ、それはそうか。普通は自分の国に攻め込んで来る可能性の高い国には武器は売らないか。
「誰彼構わず売ったりはしないってわけか」
「ああ。と、言うより、売らないではなく売れないだな。普通、武器と言うのは誰彼構わず売れるものではない。基本は片方の陣営にしか売れないようになる」
「もう片方の国が買おうとしないって事か」
「それもあるが、他にも別の武器商人から買い付けるようになるのが自然な流れだ。何せ武器商人なんてのは世界中にいるからな」
なるほどな。取引の交渉をやってる間に他の国は別のところと交渉をしているわけか。そりゃあ、戦争ってのはお互いが同時にやってるわけなんだから売れる相手は限られるわな。
「自分が一つの国との商談をまとめている間に他の国は同業の奴が交渉を成立させているってわけか」
「そうだな。それに、数にもよるが両陣営が必要とするだけの武器を用意出来ないし運ぶ事も出来ないという根本的な問題もある」
確かに……二つの国が戦争するために必要な武器を両方分製造して搬送するなんて芸当、まともな組織力じゃ不可能だな。どれだけ国力に差があるんだって話だ。
「とてつもない超越国家じゃないと製造も輸送も追いつかないだろうな」
「だからこそ、武器商人は贔屓の客を作る事になるわけだ。例えば、うちがある国と取引するとしたら、それは戦争が終わった後も見越して取引をする事になる。そうでないと戦争が終わった時点で取引が終わる事になるのだが……そうなると一つだけある問題が発生する場合がある」
「……何だ、その問題ってのは?」
「端的に言うと、受け渡しの前に戦争が終結する場合があるわけだ。この場合、武器の取引はどうなると思う?」
言われてみると確かに、戦争が終わった時点で武器は必要なくなるな。いや、厳密には戦後処理だとか治安の維持や回復のために武器は必要になるのだが、必要とされる武器の種類が変わってくる。少なくとも攻城戦に使われるような破壊兵器はお蔵入りだな。
「あー……契約が成立しているなら取引をするしかないよな?」
しかし、普通に考えれば契約成立の時点で取引の義務は生まれるハズだ。流石にそこは覆せんだろう。
「普通に考えればな。だが、戦争が終結したという事は次は講和をするという事だ。もしかしたら賠償金を支払う事になるかもしれん。そんな何も解決していないような、不安定な状況で武器の取引なんてまともに出来ると思うか? 当事国は勿論の事、相手国……さらには周辺国家が認めると思うか?」
……下手したら軍の過激派がその武器で蜂起しかねないな。そうなるともはや武器を製造した連中以外は何としてでも取引そのものを無効にしたいだろうな。




