戦線は広がる
「ああ。まず最初にそこで火ぶたが切って落とされた。そしてその戦争は数年に渡り続き、どんどん戦線は横に拡大していったようだ」
「横に？ ……確か、不可侵条約で定められた境界線は川だったな？ という事は……」
「察しが良いな。戦争の開始と同時に防御側が橋を爆破してな。川の向かい側に戦力を送り込む事が出来ずに膠着状態が続いたのだ。結果として侵略側が選んだ戦略は川を迂回するように兵士を進め端から潰していくという作戦だ。それに対して防御側が取った戦略は敵に回り込まれないように自分達も横に戦力を伸ばして迎撃していった」
なるほど橋を破壊したのか。確かにその方法なら陸上戦力の殆どが行動を制限される。兵士を川の向こう側に送るには輸送船が必要だが、その川の向こう側には敵戦力が待ち構えているんだ。送り出した先から集中攻撃に遭うだろう。それだけじゃない。輸送船だって間違いなく狙われる。船が一隻でも撃沈すれば、その分だけ侵略の効率は下がる。だから横に迂回する必要があったわけだ。敵からの攻撃が届かない範囲まで一度離れて、そこから川の向こう側に戦力を移動させて侵略を開始するわけだ。……だが、敵だってバカじゃない。それくらいの作戦は読んでいただろう。そこで防御側も横に戦力を広げていったわけだ。これの攻略法は、さらに横に展開して相手を回り込む事。それへの対抗策はこちらもさらに横に展開して回り込まれる事を阻止する事……これがお互いの戦力が続く限り繰り返されるわけだ。まさに戦線が作られていくわけだな。
「これの極致は海まで到達してしまう事だな。戦線はそこまで伸びたのか？」
「いや、別の国の領土にまで届いてしまってそこで戦線は途切れた」
「その国の領土を跨いで戦力を送り込む事は……いや、無理か。どう考えても許可しないな」
結局は防御側は境界線上に戦力を配置すれば守れるわけだから、他国の領土を進軍するのは侵略側だ。当然反撃を受けるだろう。だったら進軍が許可される事は無いだろう。自分の国が戦地になるなんて事を許容出来る国なんてあるわけないからな。
「ああ。侵略軍もそれ以上戦線を広げる事は出来なかった。二つの国を同時に侵略する事になってしまうからな」
「そうなったら軍事同盟を結ばれて逆に包囲される形になってしまうな」
「そうなる事を恐れて戦線はそこで拡大は止まった。両サイドで同様の状況に陥った事で戦線は伸びきった事が確定してしまい、回り込む事が不可能に陥ってしまった。その結果が膠着状態だな」
そうなると攻撃側が圧倒的に不利だな。どこかで風穴を開ける事が出来れば一気に状況を変える事は出来るのだが……数年続いたからには上手く行かなかったのだろう。
