勝利後の醜態
「他の交易ルートが繋がってしまった事でその土地を占領しても致命傷ではなくなってしまったわけか。そうなったら引くしかないだろうな」
「まあ、実際にはその後もしばらくは戦いが続いたのだがな。すでに大量の戦力や時間を費やしてしまったせいで引く事が出来なくなってしまっていたようだ」
コンコルド効果ってやつか。
「まあ、国ってのは個人の所有物じゃないからな……莫大な時間と金をかけて何の成果も得られませんでしたとは国民には言えないだろうな」
「暴動や内乱が発生してもおかしくはないな。ただ、その考えに至っていたのは彼らだけではなかったようだ。侵略から守り続けていた方も、このままで終わるつもりは毛頭無かったようだな。撃退だけに留めておけば良かったものを、反撃に打って出る計画を立てるようになっていたのだ。新しい交易ルートが繋がる事を知っていたから今後は物資が増えると計算していたのだろう」
……交易によって経済が活性化して物資が増えるってのは理解出来るが……それをあてにして反撃に出たら、結局増えた分の物資が戦争に消費されて物資不足に陥るんじゃないか?
「増えるのはわかるが……増えた分を戦争に回したら結局は足りなくなるんじゃないのか?」
「良く分かったな。実際に戦争が終わった後に報復として相手国に攻め込んだのだが、今度は自分達が持久戦を受けるはめに遭って敗走した歴史があるぞ」
「心情としては理解出来るが……それを止める奴はいなかったのか? 防衛戦と攻城戦は勝手が違うだろう」
「止めようにも相手の国力は底を尽きかけていた状況だったからな。この好機を見逃す事は出来なかったのだろう。それに何より、攻め込んできた敵の数と防衛した兵の数が三倍以上の差があったというのも止まる事の出来なかった理由の一つだな。現代では防衛する側の方が様々な点で有利だという事はわかっていても、当時の国民がそんな事を把握しているわけがないからな」
確かに防衛する側は地の利があったり、味方からの援護を受けやすいからな。それこそ狭い渓谷を背にして戦っているなら敵に完全包囲される事は無かっただろうし、援軍が駆けつけて来るのも特に邪魔が入る事は無かっただろう。
「三倍以上の戦力差があっても実力で捻じ伏せられると考えたわけか。まあ、負けるだろうな」
「特に酷い被害を受けたのが補給部隊だな。守っている時は狭い渓谷を通っているだけだから気を付けるのは落石や魔物の類だけだったが、攻める側になると敵からも積極的に襲われるからな。しかも魔物と違って敵は物資を奪う事は狙わずに火をつけてそのまま逃走したりするわけだから、前線は敵の村一つ落とせずにほぼ何も出来ないまま撤退する醜態を晒したようだぞ」
国が組織している軍隊が村一つ落とせないってのは醜態も良いところだな。




