人類にとっては幸運
「莫大な予算を投じても、それ以上の利益が見込めるのであれば実行に移すだけの価値はある。……という事か。……確か、最初の交易ルートが開通させるために莫大な予算が注ぎ込まれたって話だが……?」
「まあ、そういう事だろうな。未開の土地よりも栄えた都市の方が欲しいに決まっている。もっとも、その計画は最終段階まで実行されなかったようだが」
「何故だ? 急に人類全体の事を考えるようになったのか?」
「これに関しては様々な考え方がある。どれか一つが正解というわけではなく、複合的かつ複雑に絡み合っているものだろう。端的に言えば、自分が思い付く事は当然他人も思い付くという事だ」
未開の土地を開拓するよりも今現在栄えている都市を奪ってしまった方が良い……これを他の国も考えるという事か。
「仮に向こうがそう思ってなかったとしても、人の心の中なんて覗きようが無いからな……やられる前にやるか、やられないように備えるか。どちらにしても行動する必要があるな」
「後に大国と呼ばれる国が開拓に挑み続けたのもこれが理由だ。侵略するためか、それとも侵略に備えるためかは知らないがな」
「まあ、両方だろうな。交易ルートとして利用されたのは、人類にとって幸運だったな」
「本当に最初の頃は交易……人と人との繋がりが目的だったと思うぞ? 人間同士で争っている余裕なんて当時の人類には無かったハズだからな。だが、ある程度余裕が出て来ると、人間同士で争えてしまうわけだ」
魔王が軍団を率いて侵略している時は人間同士で争っている場合じゃないな。そんな事よりも優先して倒さなきゃいけない敵がいるわけだし。そして魔王が倒された後も、まだまだ強大な魔物は多数いるから、やはり争えるような状態ではない。……が、それらもあらかた倒し終われば、人間同士で戦う余裕が生まれてくるわけか。
「物事には割けるリソースってのがあるからな……魔物からの防衛をしながら他国を侵略する準備を整えるってのは、いくら何でも無理があるな。使う武器も戦術も戦略も……専用のものに洗練されていくわけだから、他の用途では使いにくくなっていってしまう」
魔物を倒すために作られた武器が戦争に使えるかと聞かれたら、物によるとしか言いようがないからな。魔物を倒すのに銀の弾丸が有効だったとして、じゃあ人に対して有効かと聞かれたら……なるほど有効だろう。しかし、ならば戦争にも使おうかとなるかと言えば、そうは決してならないだろう。そんな事をしたら間違いなく国は破産するからだ。つまり、銀の弾丸は戦争では使い物にならないという事だ。




