金持ちは皆関わっていた
「最初に全部自白した方が安く済んだんじゃないのか……?」
「それはあるな。何せ他に罪を犯していない事を裁判で証言した上でその後別の罪で捕まったからな」
そんな証言をしてしまったのか。
「裁判での心証は相当悪くなるだろうな」
「ああ。そのせいで罰金刑が重くなったようだ」
「そうやって没落した貴族がたくさん出たのか?」
「まあ、罰金を払えずに懲役を受けた者は数え切れない程いたようだな。その中には当然、貴族や大商会の重役も複数いたと聞く」
「当時の金持ちは大概何しかしら関与してたって事か」
まあ、当然と言えば当然の話だな。むしろそこら辺に金を渡さなかったらもっと早い段階で捕まっていただろう。
「当時の状況として、他国との交易なくして莫大な利益を出す事は難しかったからな。そして交易に関わるという事はつまりシンジケートに関りを持つ事と同義だ。当時はそこしか交易ルートが存在しなかったわけだからな。皆が関わっていたというよりも、関わらないで出せる利益などたかがしれていたわけだ」
「シンジケート側が後ろめたい取引をしてくる以上、それに関わるからには清廉潔白ではいられないわけだな」
まあ、その手の連中は清濁併せ呑む度量も必要になってくるだろうからな。
「清廉潔白でいるには……まあ、それは言い過ぎにしても、後ろめたい取引をせずに富を築き上げるにはもっと別のところでリスクを取る必要があるからな。それを目指したのが所謂、新しい交易ルートを開通しようと奮闘した人達だ。まあ、これに関しても、誠実であろうとしたというよりもシンジケートの取引に関われなかった……関わらなかったのではなく、関われなかった者達というのがかなりの割合を占めると思うがな」
……まあ、交易ルートが一本しか存在しない以上、物流の量には限界があるわけだ。それを税だのなんだので物価を跳ね上げて利益を出すわけだが……これにだって限界はある。基本的に利権と言うのはここで荒稼ぎした利益の分配の事を指すわけだから……一定以上の人数にまで増やすわけにはいかないわけだな。
「シンジケートに仲間入り出来なかった弱者達……厳密には、弱者って程でもないのだろうが……勝ち馬に乗れなかった連中が集まった勢力って感じか」
「あながち間違いでは無いな。彼らだって何らかの手段で金を稼がない事にはどんどん影響力を失う事になるわけだから、新しい交易ルートが作られそうだとなれば、新しい団体が結成されるのも頷ける。もっとも……その中にはシンジケートとも繋がりのある者が何人かいたようだが」
どっちとも関わろうとした奴もいたわけか。強かなものだな。




