もしあったとしても……
「隠すよりも使い切ってしまう方が早い……まあ、その通りだな。だが、それだと隠し財産は存在しない事になるな」
「そりゃそうだろ。仮に脱税して貯め込んだ金だって後生大事に保管しているかと言われたら怪しいもんだ。美術品でも買って保管しているってのが普通だろ」
「それはそうだな。だが、そうなるとその美術品が隠し財産にあたるんじゃないのか?」
「どこかに隠しているならそうなるな。だが、言うほど美術品なんて物をどこかに隠すか? 普通は自分の家の金庫とか……隠すというよりもしまうものだろ?」
「まあ、隠すものではないな。と、言うよりそもそもの話として一定期間以上放置するという事が出来ないハズだ。美術品はその保存状態によって価値を著しく落としてしまうからな」
そうなってしまうだろうな。長年放置しても状態を保存出来る美術品なんて、かなり限られたものになるだろう。
「隠し財産にするには向いていないな。そもそも美術品をせっかく買ったのに飾らないなんて、何のために買ったのかわけがわからんしな。それを考えたら隠し財産にするなら金塊だとか宝石だとかそういった物になるだろう」
「金塊というのはあり得るな。いざという時現金化しやすいからな」
「ただ、そうなると別の問題が発生する。そんな価値の安定した物を貯め込みながら組織としての運営をしようものなら、まず間違いなく他の派閥に知られる事になる。……いや、それ以前に財産をどれだけ隠すかの会議が行われるハズだ。組織の運営資金を横領しながら資産運用なんて出来るわけないからな」
財産をいざという時のために隠すと言うのは、金庫に金をしまうのとはわけが違う。自分自身ですらもそう気軽には取り出せないように厳重に保管するハズだ。いざという時以外は使わないハズだしな。組織がそんな資産運用してたら……まあ、いつかは破綻するだろう。一般的な組織の資産運用の内訳に『逃亡資金』なんて項目は存在しないわけだからな。そんなものは真っ先にコストカットされる対象だ。
「一定階級以上の幹部なら知っているわけか。明確に存在する事を」
「本当に存在するならな。そうなると、残党は……復権派だったか? まずそれの回収を急ぐ事になるな。そうなると問題は復権派の中に支配階級の人間がいたかどうかだ」
「いなかったハズだ。そのレベルの連中は全員捕まったからな」
「なら、復権派は隠し財産は存在するハズ……という事までしか把握出来ない理屈になるな。財産の管理者がいない限りは」
もはや中心人物達ですら存在するかどうかわからないような状態になるわけだ。
「……復権派がそのような動きをしていたという話は聞いた事が無いな。いや、本当はしていたのかもしれないが……もししていたならその復権派が捕まった時点で国が把握する事になるな」
「まあ、没収だろうな。つまり、もし、万に一つ隠し財産なるものがあったとしても、とっくの昔に国が徴収しているだろうな」
今も隠し財産が残っているとしたら、それはもう個人が残したようなものだけだという事だ。とてもじゃないが陰謀論になりそうな額には到底及ばないだろう。もっとも、当事者本人達ですら把握していない隠し財産があると言うのであれば……存在するかもしれないがな。




