逃げ出すのも難しい
「国外逃亡の際の死亡と言うと……開拓の不足が原因か」
「そういう事だな。何せ当時の国から国への移動と言うのは何週間も前から事前に予定を立てて行うものだからな。現代のように気軽に移動出来る範囲ではないわけだ」
まあ、移動ルートが限られているという事は、一日の交通量にも限界があるという事だからな。とは言っても、リスクの高さを考えるに毎日キャパシティ限界の交通量があるとも思えんから、恐らくは最低限必要な準備を整えきれずに出発してしまったのだろうな。
「そりゃあ、金だとか権力だとかの類で自由に行き来出来るなら開拓なんてもっとすんなり成功しているだろうからな」
「まあな。しかし、単に国を行き来するだけならそこまで難しい話でもない。当時だって毎日それなりの量の人や物が移動していたわけだからな。遭難や事故などの問題が発生したのにはもっと別の理由がある」
「準備が整っていないのに逃亡を強行した事か」
「それも大きな理由だな。他にもまともなルート選択をしていなかった事があげられる」
「ルート選択? ……選択も何も、選択肢なんて存在しないだろ?」
当時存在した交易ルートなんて数える程しか無いハズだ。その上、逃げ出す国を考えたら選択肢はさらに減る。それこそ一本しか通行路が存在しないって事になっていただろう。
「当時は情報の伝達にもそれなりの時間がかかるものだったからな。自分がいち早く情報を取り寄せる事が出来れば、周囲に知られる前に逃げ出す事も出来たのだが……これに関しては逆もまた然りだったわけだ。つまり、自分が情報を手に入れた時点ではもうすでに手遅れという状況だ」
「……実質的に唯一の交易ルートなら、情報が行き来するのもかなり早いだろうな」
「今では信じられない話だが、隣町の情報よりも頻繁に他の国のニュースが飛び込んで来る事が多いのが当たり前だったようだぞ。それどころか、都のニュースさえも一度他国へ流れたものが再び流入するのが早いくらいだったそうだ。それだけ人の行き来が違い過ぎたわけだ」
なるほどな。毎日交易ルートを通って一定数の人間が行ったり来たりしているなら、国外に流れて行ったニュースが再び国内に流れ込んで来る事もあるだろう。極論を言ってしまえば、国外から自分の国のニュースが入ってくるまでの間に、国内同士での流通が無ければ自国のニュースが流れてくる事はありえないわけだからな。
「それとルート選択を間違えた事とどう繋がるんだ?」
「要するにまともな道を選ぼうにも、交易ルート上の住民に知られてしまっているわけだ。そんな状態では逃げたくても逃げられないわけだな。だから、人目につかないように隠れながら移動する事になるのだが……そんな事をしながら移動したせいで危険な目に遭ってしまったわけだ」




