逃げ切った者達
「普通名簿なんてすぐに廃棄するものだと思ってたが……案外そうでもないらしいな」
「追っ手から逃れるためなら証拠隠滅のために廃棄するだろうが……持っていたのは再建派だからな。むしろ追い込むために保管し続けていたようだ」
なるほどな。過去に繋がっていた証明になるわけだから、脅迫の材料に使えるわけか。
「確かに、再建しようと考えてる連中の目線で考えたら、旗色が悪いと見て脱退した奴は裏切り者に見えるだろうな」
「再建のためには名簿は必要不可欠だったわけだ。それが発見されてしまったせいで世界は一時的に大混乱に陥ってしまった」
まあ、普通に考えれば名簿が発見された後に行われるのは一斉逮捕だろうからな。当初捜査から逃げおおせていた連中が捕まるとなると、その影響は計り知れないな。
「当時の様子なんて予想のつきようも無いが……どれくらい影響が出たんだ?」
「あらゆる面で悪影響が出たと言われているな。まず開拓事業は一から見直しになったし、逃げだした政治家を探し出したり、仕事の引継ぎやらで相当な事が滅茶苦茶になったようだ」
「政治家は逃げ出したのか……」
「まあ、そもそもが上手く逃げおおせていた連中だからな。国外へ逃げたり、ほとぼりが冷めるまで潜伏したり色々だな」
「ほとぼりって……何年か経ったらまた政治の世界へ戻ってきた奴がいたのか?」
実際に捕まったわけでは無いのであれば国民相手にはどうにか誤魔化せるかもしれんが……戻ってきたら逮捕されるだけだろ……? 時効が成立するまで潜伏し続けたのか?
「ああ。もっとも……上手く戻れた者は一人もいなかったようだがな」
「それはそうだろ。どういう理屈で戻れると思ったんだ?」
「簡単に言えば所属期間がほんの僅かだったとか、かなり早い段階で離脱していたとか、そういう主張を繰り返していた。流石にシンジケートとの関わりを否定する者はいなかったぞ」
「まあ、証拠はあるわけだしな……」
流石にその主張は無理があると考えたか。
「だから所属していた事そのものは認めた上で、そこまで深くは関わっていなかったと主張したわけだ。国民の怒りは税金で不当に利益を得ていた事だからな」
「……幹部級なんだろ? 無理ないかそれ」
「あるな。だから関係者の殆どが捕まった。結果的に捕まらずに済んだのは、かなり早い段階……シンジケート崩壊より前の段階で離脱していて、しかもそれを表明していた者くらいだ。後は俗世間からすらも離れて世捨て人になった者か。……ああ、あと、ある意味では国外に逃れようとしてその道中で命を落としてしまった者達も捕まらなかったと言えるかもな」
開拓が順調に進んでいれば、安全に国外逃亡出来たのだろうと考えると、なんとも皮肉な話だな。




