見通しが甘かった
「実際に検証する奴らが現れたか……それは不味い事になったな。しかしそんなのどうやって検証するんだ?」
「基本的には状況証拠からの推測だな。まあ、状況証拠だけで決めつけるわけにもいかないから、大騒動になりつつも裁判の判決は注目された。結果は再びの勝訴だ。決め手になったのは過去に関わっていたどころか、現在も関わっている証拠が出てきてな。そこからは一気に決まったようだぞ」
「今も関わってるって……シンジケートは壊滅したんじゃなかったのか?」
「ああ。だが全員捕まったわけではないからな……再建派も少なからず暗躍していたようだ。そして被告人の正体だが、彼も元シンジケートの末端構成員……ただし、親が幹部級だったようだ」
幹部の息子……シンジケートが存続していれば幹部候補生か。
「将来を約束されているのも同然だったのに、いきなりの転落人生か。しかし、そいつが再建派にならなかったのは何故だ? 親の名前を使えば……それとも、親はもう捕まってたのか」
「いや、その被告人と親は裁判での判決が出た後に捕まった」
「被告人もか?」
「ああ。当時末端だったとはいえ色々な事に関わっていたからな。親子ともども有罪判決を受けて刑に服したぞ。まあ、刑期はかなりの差があったが」
そりゃあ、幹部とその息子じゃ罪の重さは違うだろうな。
「事件の後に親が捕まったのか……」
「でなければ幹部の息子の密告として初期の段階でもっと注目されていただろうからな。裁判中にどんどん新しい証拠が出て来たわけだ」
「……って事は、被告人本人にとっても自分の正体がバレるのは想定の範囲外だったって事か?」
「だろうな。そもそも新しい証拠が出た理由と言うのも、再建派の大量捕縛が理由だしな。そこからシンジケートの上級構成員名簿……つまりは幹部級の名前が記載された名簿が見つかって、全員が関係者であることが判明したわけだ。まあ、タイミングとしてはベストと言うか最悪と言うか……裁判には勝てたが最終的に自分も親子揃って捕まったのだから最悪だと言えるだろうな」
裁判中に構成員名簿が出て来るとは夢にも思わなかっただろうな。
「元幹部が再建派に入ってないって事は……そこでも派閥争いか」
「ああ。そこも研究する上でかなり重要なファクターとなっているな。そこら辺の捜査が続けられている事など、関係者なら知っていたハズだからな。それを理解した上での裁判騒ぎ……やるにしてももっと待ってからやるべきだったハズだ。結果的に捕まるとしても、逃げる事くらいは出来たハズだしな」
国の捜査官では名簿を入手する事は不可能だと高をくくったか? ありえるな……被告人本人だってシンジケートとの繋がりを隠し通せると思っていたのだろうし、色々と見通しが甘かったな。




