稀にいる本物
「嘘をついてもバレずに済むから騙せてたって事か?」
「ああ。実際にこれは流通が発展して情報の交換が行われるようになった事で一気に減っていったと言われているからな」
騙されてるとわかった連中からしてみたら堪ったものじゃないな。
「それまでは上手い事騙していたわけか」
「騙すと言っても、騙したところでどうという話では無いがな。今まで持っていた権限は無くなったし、何より金を動かす事が出来なくなってしまった以上、騙すのにだって限度と言うものがある。精々が根拠もありもしないデマ情報を流すくらいだな」
「それだけでも信じる者がいるなら相当なものだと思うがな……」
実際に騙される奴がいるとなると、相当な影響力を持つことになるぞ。
「だから厳罰化されたわけだ。最初は噂が隣の村にまで届くのも稀な事だったから何の問題も無かったが、物流に合わせて情報も行き交うようになると、根も葉もない噂が流れるようになる。その中には本当の事もあったようだが……他の数多の煩雑な嘘に埋もれたようだ。まあ、そこは法を制定出来る立場の人間だからな。厳罰化して捕まえてしまえば良いだけの話だ。それを正当化するための理由なんて幾らでもあるからな」
「噂で国が混乱したら困った事になるからな。しかし……そんな中でどうやって本物もあったなんてわかったんだ? まさか根拠も無くあったに違いないとか言ってるわけじゃないんだろ?」
「当然、捕まった奴の中には本当に証拠を持っていた奴も僅かながらもいた。それが裁判で明るみに出て問題に発展した事例が何件かあるんだ。……まあ、本当に証拠を持った上で脅すならそもそも明るみに出ないように脅迫するだろうし、脅迫を受けた方も内密に処理するだろうから実際には何件という数では終わらないとは思うがな」
……じゃあ証拠を持った上で吹聴している連中の目的はいったい何なんだって話になるぞ?
「裁判で勝った連中って何の目的でそんな行動をしたんだ?」
「そりゃあ、確たる証拠を持っていたとしても、そいつが愉快犯にならない理由にはならないからな。世の中を引っ掻き回すのが目的でわざと捕まったようだぞ。歴史的に見てもかなり有名な事件だから当時から様々な専門家がそれぞれの視点から考察している。何せそいつの頭がおかしいからで片づけるにはあまりにも惜しい事件だからな」
……まあ、本当に脅迫に使えるような話を証拠込みで持っているような奴がわざと捕まるってのもおかしな話だな。脅迫しようにも握り潰されて終わりと考えたからとか、それらしい理由付けは可能だが……様々な専門家が調べてるって事はそんな真っ当な理由ではないハズだ。そもそも愉快犯だってのは結論として出ているわけだからな。




