本気を出さなかった理由
「お互いの力の差を考えれば後先考える必要もなかったし、現実的に時間が無かったのもありそうだな」
「圧力をかけさえすればすぐに折れてくれるだろうと考えていたのはあるだろうな。もっとも……その圧力を本格的にかけたのが遅すぎたのだろうがな」
「まあ、圧力なんてかけたところで本来何の得にもならんしな」
基本的に自分に何か不都合があるから圧力をかけるものだからな。それに圧力をかけると簡単に言っても、そこまで気軽に出来るようなものでもない。まず何と言っても関係者への根回しは必要になってくるし、関係者に頼み事をするのに手ぶらってわけにもいかない。細かい事にまでいちいち圧力をかけていたら、その根回しで破産しかねないわけだ。
「既得権益が守れるという点ではあるにはあるが……それを実感するのは本当にそれが危ぶまれた時だけだ。本当に圧倒的な勢力を持った組織が開拓事業に参加してきたのであれば、最初から全力で行動を起こしていたのであろうが……なまじ片手間でどうにでもなるような相手だったのが不味かったようだな」
まあ、費用対効果を考えたらまずやらないからな……利益を追求すればするほど無駄な事に金は使いたくないだろう。
「仮に開拓を成功されても、シンジケートからしてみたら痛くもかゆくもない話だからな本来。不味いのは新しい交易ルートを構築される事だけだ」
「ああ、その通りだ。村の開拓に成功したと言っても、小さな村だった上に、そこでの経済活動を行うにはシンジケートが管理する流通ルートを使う事が必須だったからな。奴らからしてみたら客が増えてくれるわけだからそこまで本気で潰すような状況では無かったわけだな。まあ、強いて言えば自分達以外に開拓を成功させた者として注目を浴びる事になるからそこをどこまで深刻に捉えるかだな」
まあ、自分を脅かす存在になるまで成長するのを恐れるか、新しい顧客が増えるのを喜ぶかの二択なら、意見は割れるだろうな。……いや、意見が割れるようになったのはかなり後になってからだな。途中までは後者に傾くハズだ。基本的に客が増えるのは喜ばしい事のハズだし、最初からあまりにも消極的な策を意見していたら臆病者と揶揄される事になるだろうからな。あの手の連中からしてみたら受け入れがたい事だろう。それを考えたら、手遅れになるまで本気を出さなかった事も頷ける。




