やってられない
「税の引き下げは……国としてはやりたくないだろうな」
「ああ。貴重な財源だし、人類の復興は最重要課題だからな。それに加えて税の大半はシンジケート側の収入になるから減らすわけにはいかないわけだな」
「せっかくの利権が消滅するわけだからな……しかし、そうなるといよいよ失敗は許されなくなるぞ」
失敗に終われば金と人材と時間をドブに捨てるようなものだが、成功さえすれば最低限の正当性は保証される事になる。何かしらの成果と呼べるものを領民に示す必要に迫られたわけだ。
「そこで莫大な資金を投入した一大開拓計画が発案された。これが成功すればまったく新しい交易ルートが開通し、より安定した物流が可能になるという触れ込みでな」
「ん? それまでの交易ルートは一本しか無かったんだよな? じゃあその計画は……」
「ああ。計画そのものは成功したが、その前に別の交易ルートが開通した。正確には計画を立てているという公表から実行に移すまでの間に小規模ながらも新しいルートが一本出来たわけだ」
完成したルートの規模……どれだけの物量を運搬出来るか、どれだけの大人数での移動が可能か、それ次第では数十年単位での工事計画が必要になるだろうから一概には比較は出来ないが……その理屈で言えばかけられた予算も比較にはならないわけだから、面目は丸つぶれだろうな。
「計画をまとめるだけでも何年かかるかわかったものではないだろうからな……その間に成功される可能性も普通にありえたわけだな。しかし、どちらにしても国で管理している事業なんだから特に問題は無いんじゃないか? それこそ一大事業の後押しになるだろうし、得しかないだろう?」
「国全体と言うか、もっと広い視野で考えればその通りだが、実際には国の内部で派閥争いが行われていたからな。シンジケート派とその反対派との対立を前提に考えれば、手放しで喜べる状況では無かっただろうな。そもそも小規模な開拓を積極的に支援していたのも反対派の抵抗だったわけだからな」
「そうなのか?」
「ああ。ただでさえ税の大半をシンジケート側が回収しているのに、その上さらに開拓事業の予算までシンジケート側の人間に回すなんて堪ったものではないからな。それで計画が成功すれば功績まで向こうの独り占めだぞ? やってられんだろうそんなものは」
……確かにやってられないな。そもそも領民から苦情を言われる最大の要因がシンジケートにあるというのに、これではマッチポンプも良いところだ。




