火霊祭本来の目的
「……待てよ? 二百年前にようやく長距離移動するための技術が開発されたって事は、それより前は徒歩や馬車か。……魔王討伐が八百年前って事は……それまでの六百年間は馬車での移動かよ。転送魔法じゃ大した量の物資は動かせないんだろ?」
「ああ。だからこの国で火霊祭が行われるようになったんだ」
「は? ……いや、そうか。大量の物資は運べなくても天才の一人や二人なら安全に移動出来るのか」
一瞬、オリヴィエが何を言っているのか理解出来なかったがなるほど、確かに圧倒的な能力を持った個人ならそれぞれの国へ赴く事も可能だろう。
「しかも場合によっては自力でな」
「安定した交易が見込めない以上、この国はある時期まで自給自足を強いられてきたわけだな……それで一人の天才を見出す必要があったのか」
「それも一つの能力に突出した一芸特化タイプではなく、様々な分野に精通した万能タイプが必要とされたわけだ。何せ国外の知識や技術を自国に持ち込むのが当初の目的なんだからな」
必要は発明の母とは良く言うが……火霊祭という行事そのものが必要とされた発明だったというわけだ。
「……と、言う事は……賢者様ってのはそれを見越していたって事か?」
「それはだから前に言っただろう? 火霊祭の本来の目的は『賢者様の後継者探し』だと。見越していたと言うよりは、自分がそうだったから自分以外にも増やそうとしていたのだろうな」
なるほどな。外国の技術や知識と必要最低限度の実物を持って帰る事が出来れば、自国でもそれを利用する事が可能になってくるハズだ。それを最大効率で実現するには、あらゆる分野に精通した万能タイプの天才が必要になってくるな。
「とにかく外国から知識や技術を自国に持ち帰るのが目的だったわけか。当然、人間一人に世界中の知識や技術を詰め込めるわけがないから人数が必要になってくる。火霊祭はそれを実行するための選別試験だったわけだな?」
「その通りだ。実際これは見事に成功し、この国は一気に成長して逆に外国へ知識や技術を持ち込むまでに至ったわけだ。この大会が四大大会の中で最も重要視されている理由がこれになる。本当に文字通りの意味で国の命運を握っていたんだよ。初めはこの国自身の。ある時からは国と呼べないような小さな村や町に対してな。……今現在ではほぼ廃れ切ってる志だがな」
オリヴィエは最後の一言だけは吐き捨てるように言った。




