やるなら今夜
「無理があると言っても、明日になって確認してからでは遅いというのも事実だぞ? 明るければ見つかる可能性も上がるし、深夜よりも日中の方が人通りだって多い」
「タイミングとして今しかないわけか」
確かに明日になってしまえば誰かにバレる危険性は一気に跳ね上がるな。
「ああ。そして、今だからと言ってバレる可能性が低いかと言ったら別にそういうわけではない。比較的マシというだけだ」
「選手ならともかく、雇われの審査官が渡る橋ではないな。万に一つでもバレたら目も当てられないぞ」
余りにも危険過ぎる。バレた時に責任を取れるような人もいなさそうだしな。
「まあ、選手なら出場停止にするだけで良いからまだマシだが……審査官の場合だとそう気軽に出来る事では無いな。……しかし、出場停止処分にする他無いのだがな……」
「選手が一人減るのと、審査官が一人減るのでは負担が違うからな」
俺の言葉に、オリヴィエは頷く。選手の立場なら、選手が一人減って、順位が一つ繰り上がるだけで話は終わりだが、審査官の場合は競技が円滑に終わらない危険性が発生する。そんなつまらない理由で大会が滅茶苦茶になるくらいなら、最初からルールとしてアイテムの持ち込みを許した方が管理も楽だろう。
「やはり、審査官の中でそんな後先考えない行動を取る者はいないか」
「そりゃあ、選手と違って得られるものに限度ってものがあるからな。それに対してバレた時の責任が重すぎる。誰もやろうとしないだろ」
選手なら勝敗の結果次第で今後の人生に大きく影響を及ぼすのだからやろうとする者も現れるだろう。ところが、審査官の場合だと、上手く行っても大した事は無いし、失敗に終わったらキャリアが完全に崩壊するわけだ。好き好んでやる馬鹿はいないだろうな。
「やはりやりかねないのは選手の方か……ならば、いっその事、今夜選手を捕まえに行くのはどうだ? これなら上手く行けば明日の競技に出場する選手を減らす事が出来るぞ」
「上手く行けば良いが……こっちの国の選手とばったり会ったらどうするつもりだ?」
俺は素朴な疑問を口にする。何もこの手の不正を働く奴が国外にしかいないなんて事があるわけがない。当然、自分の知っている誰かと会う可能性だってあるわけだ。そんなものは見たくないし、かと言って見なかった振りをしたらその時点で共犯だ。ハッキリ言って労力と釣り合っていないな。




