湧いたように現れる
「まあ、資料に頼り過ぎるというのも問題があるだろうな。それこそ今年初めて出場する天才がいるかもしれないんだからな」
「初出場の天才か。確かにそれは対処のしようがないな。世界中から集まって来る選手達全員を調べ尽くすのには途方も無い時間がかかってしまう。全員を調べる時間が無い以上、調査するのは有力株に限られるだろう。……が、その有力株だって余程並外れた才能を持っていなければ資料には書かれんだろうな」
世界中から様々な人間が集まって来るわけだが、その全員は調べられんし、覚えられん。つまり、過去に優秀な成績を残した選手は調べても、今回初めて出場する選手のデータは殆ど存在しないと考えるのが妥当だろう。何せ出場する前からデータを集めていなければ資料に書き出せないのだからな。
「余程優秀って……例えば、初出場で優勝するような選手か? そういう選手は、やはり初出場した際にも注目されるものなのか?」
「いや、案外そうでもない。初出場で注目されるのは、別の大会で活躍していたり、王侯貴族や優勝者の親族だとか、そういう類の連中だ」
「つまり、もしお前が出場していたら世界中から注目されてたって事か」
「そういう事になるな。要するに凡人の尺度で測れるのがそういう人間だけだという事だ」
まあ、出場する前から有名って事になるからな……それくらいの事でも無ければ注目はされんか。
「凡人の尺度では測り切れないような選手は実際に優勝するまで発覚しないというわけか」
「そういう事だ。だいたい何の前触れもなく突然降って湧いたように現れる。だが、まあ、火霊祭の趣旨から考えればまさにそういう魔術師が現れる事こそが重要ではあるのだがな」




