裏切る意味が無い
「……自分が勝ち上がれるという状況になれば、他の誰が脱落しようとも痛くもかゆくもないだろうな……」
「勝ち上がりが確定したら仲間を裏切るという事か? 理論的には間違っていないが……そう単純な話でも無いと思うぞ? まず第一に確実に勝ち上がれる状況というのが実現可能なのかどうかが疑問だな」
オリヴィエの疑問ももっともだ。勝ち上がるための基準が何かによって話は大きく変わって来る。
「より長時間生き残る事が基準なのだとしたら、自分の勝ち上がりが確定した時点で裏切りも何もあった物では無いな」
「ああ。必然的に仲間の勝ち上がりも確定しているのだから、下手に裏切る様な真似をするとそれ以降他の選手達から集中的に狙われる可能性があるからな……だから、裏切るのであれば自分の勝ち上がりが確定していて、かつ、仲間の勝ち上がりが確定していない状況……つまり、自分の行動次第で脱落させる事が可能な状況でなければ裏切る意味が無いわけだ。そのような状況があり得るのか?」
かなり難しい状況だな。まず自分の勝ち上がりが確定していて他の選手の勝ち上がりが不確定であるという状況が意味不明過ぎる。何らかの加点要素が発生している事になるが……確定しているという事は、例えその時点で自分が戦闘不能に陥っても百位以内に入れるという事になるわけだ。
「裏切る……という表現が適切では無いのかもしれん。例えば、競技の途中でギブアップする事が可能だとすればどうだ? 勝ち上がりが確定するボーダーラインを超えた時点で仲間を見捨ててさっさとギブアップ出来る事になるが……」
「結局、その時に他の選手が勝ち上がれるかどうかわからない状況でないと意味の無い話になる気がするが……いや、必要な点数を得た時点で抜けるだけと考えれば成り立つ話ではあるのか……?」
正直、どういう基準で勝ち上がるのかは想像もつかないが、上から順にさっさと競技から抜けてくれるシステムなら、残された選手達で番狂わせも起こしやすいか。
「まあ、合格ラインを越えたら戦線離脱と考えればわかりやすいかもしれないが……それはそれで問題が出て来る。まずそれを実現するには同時に行われているであろう競技の得点状況をリアルタイムで把握出来るシステムである必要がある。しかもそれが選手にも確認可能なシステムでないと実現出来ないという点だ。流石にこれは無理があるだろう。そうなると、得点が入る条件が細かく決められたルールブックが存在して、そこから自分の得点を計算するしかないのだが……それだって、ある一定以上の得点を得られるのは百人未満である事が計算で証明出来ない事には理屈になる」
仮に百点を取れれば合格というルールだとして、百点を取った選手が必ず丁度百人になるルールなんて想像がつかん。そもそも百点以上取る方法があるのかどうかでも話が変わって来るしな。……だが、百点を取れる奴が理論上百人未満にしかならないとしたらどうだ? その点数を確保した時点で抜ける事は起こりえるだろう。後は残った連中が百点に近い数字を出すのを高みの見物をしてれば良いだけの話だ。




