二律背反
「ベストを尽くせか。それがまんまと相手の思惑通りという結果になりかねないが……それが上位勢に対して都合の悪い動きである事を期待するしかないか」
「ああ。とは言っても、毎年安定して上の順位にまで行けるのは伊達じゃ無いだろうな。向こうの方が基本的に有利に立ち回って来る可能性は高いな」
相手がどこまで上手く状況をコントロールして来るのかはわからないが……上の順位に安定して入って来る連中が結託しておいて何の策も打たないって事も無いだろう。むしろ積極的に利用してくるだろうと考えるのが妥当だ。何せ競技を突破した後には、より強力なライバル達がひしめき合う場所での戦いの連続だからな。後の事を考えれば全力を出すような場面じゃないハズだ。
「向こうの方が有利か……まあ、そうだろうな。私達と同じく明日初めてルールを聞かされるのだとしたら、適応するのも何かを思いつくのも私達より早いだろうな。そんな連中が結託してくる可能性が高いのだ。気を引き締めてかからねば信じられぬほど退屈な結果に終わるかもしれんぞ?」
退屈な結果か……つまり、実力上位の連中が実力通り勝ち進んで行くという結果だ。これは出来れば避けたいところだな。
「一応、俺達の思惑通りに事が運ぶ根拠はある。連中の結託がその場限りのものでしかないという点だ。競技が終われば、またライバルという形に戻るのは目に見えてわかっている事だろう。つまり、周囲と結託した上で、他の仲間には負担を押し付けて自分がより上位に立つための布石を打ちたいハズだ」
まあ、ぶっちゃけ俺達が目的を達成するためには、ここら辺の駆け引きに乗っかるしか無いだろうな。
「チーム全体としては全員で勝ち上がる事を目標としているが、最終的には戦う事になるのだから少しでも倒しやすい状態に追い込んでおきたいというわけか。二律背反という奴だな」
オリヴィエの言う通りだ。自分が安全に勝ち上がるには、組んだチーム全員で勝ち上がるように行動すべきだ。……が、その後の事を考えると、自分一人が勝ち上がる事が望ましいわけだ。自分が勝つためには仲間と協力する必要があるが、自分が勝つには仲間には脱落して欲しいわけだ。まさに二律背反だな。そして、その矛盾した願望は俺達審査官が介入する事で意図的に叶える事が狙えるかもしれないという点は見過ごせない事だろう。




