狙いは序盤と中盤
「ああ。序盤はまだ人数が多いから戦闘行為は盛んに繰り返されるだろうが……終盤になって上澄みだけが煮詰まってきたらもはや審査官の実力でまともに戦える選手は残っていないだろうからな。恐らくだがその時点で後は流しになるだろうな」
やはり、オリヴィエの考えでは最後の詰めで甘くならざるを得ないという予想を出してきたか。
「俺達がその予想を出せるって事は、当然運営もその事態を懸念しているだろうな」
「だろうな。終盤になれば私達審査官も、選手達も自身の一挙手一投足が勝ち上がりに強く影響してくる。命に関わるような怪我も。……人数がある一定まで絞られてきた時点で一気に戦況は停滞すると予想されるが……運営はそこからの詰めをどうするつもりなのだろうな?」
終盤の詰めか……勝ち上がれるか否かで得られるメリットが雲泥の差になる以上は選手達はより確実に勝てるように慎重に行動し始めるハズだ。そうなるとより上の順位にいる者が順当に勝ち上がっていく結果になるわけだから……下位にいる者ほどリスクのある行動を取らざる得ないわけだ。逆に審査官の場合はどうなる……? 命に関わる怪我をするかもしれないというリスクに対して、釣り合いの取れるリターンはあるのか……? 選手にはあった、勝ち上がれた場合の恩恵が無いのだから、リスクの方が圧倒的に重くなるだろうな。
「選手達は勝ち上がった場合の恩恵がデカすぎるから勝負を仕掛ける事も十分考えられるが……審査官にはそれが無いからな……やはり何らかの報酬で『釣る』必要はあるのだろう。……問題なのはその報酬をどう設定するかだが」
「単純に選手を倒した数だけ報酬を出せば良いのではないのか?」
「それは終盤に戦う理由には成りえないだろ。むしろ終盤までにいかに効率良く戦うかという思考になる」
序盤にまとまった数の選手を倒して、後はさっさと戦場から手を引く……これが一番賢い戦い方になってしまう。
「そうか……終盤になっても積極的に戦いを仕掛ける動機にならなければ意味が無いのか。なら、終盤になるにつれて選手を倒した際の報酬を引き上げていけば良いのではないのか?」
「それをやると今度は序盤で倒し渋りを起こす可能性が高いぞ」
「……今倒すよりも後で倒した方が美味しいというわけか……解決法なんてあるのか?」
「無いな。どうやっても終盤で審査官が果敢に戦う理由が無い」
そもそも終盤にもなれば審査官側だって相当疲弊しているハズだしな。その状態からさらに力を振り絞るのは無茶な注文というものだろう。
「ならばどうする? 終盤はフェードアウトか?」
「終盤での詰めが甘くなる現象が避けられない以上、序盤中盤の段階で要求を満たした状態に持ち込む他ないな。つまり序盤から上位者を積極的に狩りに行くメリット……懸賞金を設定するしかない」
「懸賞金か……より上位の選手ほど高く設定して狙わせる作戦か」
結局のところは上澄みの連中が脱落してもらうのが狙いなのだから、終盤で戦いが停滞するのがわかり切っている以上、序盤か中盤で倒すしか選択肢が残されていないわけだ。




