審査官と戦う理由
「私は……貴様と同じように誘き寄せる側だな。もっとも……私達が誘き寄せるエサに成りえるのかどうかは疑問だが」
「どういう事だ?」
「そのままの意味だ。選手の目的は他の選手との蹴落とし合いだ。我々と戦う理由などというものは持ち合わせていないだろう」
確かに……俺達が戦いに参加するのだから、選手達も積極的に戦いを仕掛けて来るものだとばかり考えていたが……ライバルを蹴落とすという観点から考えれば、他のライバルとぶつけるように誘導する事はあっても、自発的に戦う理由は無いな。むしろいかに俺達審査官との戦いを避けて通るかが重要な戦略になりそうだ。
「確かに逃げるか、他の選手と戦うように誘導するのが合理的だな。誘き寄せるという戦略はそもそも成立しないか」
「しかし、運営の目的は限られた時間内での戦闘を活性化させるのが目的で私達を呼び出したハズだ。私達が駆け引きの材料……要素になる事は望んでも、私達が戦いを消極的にする事は望んでいないハズだぞ?」
「何らかの形で俺達との戦闘にメリットがあるようなルールを設定するつもりなのかもしれんな。一番わかりやすいのは、百位以内確定とかか?」
審査官を撃破した者は確定で百位以内の順位を約束すれば、選手達は血眼になって俺達審査官を探し出して積極的に戦いを挑んでくるハズだ。
「流石に公平性に欠けるだろうそれは。私達審査官だって、ピンキリなのだぞ?」
「比較的弱い奴を探し出してそいつとのみ戦うという事を選べる能力を含めて評価すると考えれば筋は通るように思うが……」
「私達がいる場所だってわからないのだから、運の要素だってあるだろう。それに、複数人で審査官を倒した場合、誰の手柄とするかだって疑問が出る」
仲良く分配……って事は無理か。確実に誰がとどめを刺したかで言い争いになるな。そして実際に倒された審査官だって、確信を持って誰に倒されたかを断言するのは難しいハズだ。場合によっては不意を突かれて戦闘不能になる事も考えられるのだからな。いくらなんでも、いつ誰に何をされて倒されたのかを自分で理解していない状態では、どうしようもないからな。
「選手全員が審査官と正々堂々戦うかと聞かれたらそんな事は無いだろうし……何だったら、審査官に勘付かれずに倒そうと考える選手が大半だったとしても驚く事では無いな」
そもそも選手目線で考えれば初日の審査なんてのは通過点に過ぎないハズだからな。勿論、その通過を目標にしている選手も数えきれない程いるとは思うが……上位勢からしてみたら通って当然と考えていかに体力魔力を温存するかに考えをシフトしていてもおかしくは無いハズだな。




