注文した料理
「ようやく料理が来たか」
「おい、テーブルの上を一度片付けるぞ」
ドアを開けると、やはりルームサービスで注文した料理が届いたようだ。俺達はテーブルの上に置かれていた資料の類を一度別の場所に移すと、係員に料理をテーブルの上に運んでもらった。
「良し、こんなものだろう」
テーブルの上に物が無くなると、そこに料理が並べられる。係員は俺達にこの料理が何という料理で、どこで育てられた牛のどこの部位が使われたステーキなのかを一通りした。
「なるほどね……意味わかるか?」
「まあな。有名なところだ。注文する客も多いだろうな」
「ええ。今日は特に多くのお客様が注文していますね」
オリヴィエの言葉に係員も丁寧な口調で答える。……まあ、どいつもこいつも考える事は俺達と一緒か。そりゃあ、どうせホテル代は大会の運営持ちなんだ。料理くらいは一番高い物を注文するのが人情というものだろう。
「それじゃあ、冷めないうちにいただくとするか」
「どうぞお食事をお楽しみくださいませ。食べ終わりましたらお手数ですがもう一度呼び鈴でお呼びいただければ、空いた食器をお下げします。何か御用がごさいましたら、気兼ねなくお呼びくださいまし」
俺達が料理を食べ始めると、係員は部屋から去って行った。
「……あの口ぶりだと、他の連中もこの料理を注文しているようだな」
「そりゃそうだろ。料金は向こう持ちなんだからな」
「どいつもこいつも貧乏くさいね」
「宿泊料に加えて高級なステーキを注文する余裕なんて一般客にはそうそうないだろうからな。まあ、今夜は火霊祭前日だ。奮発する客がいてもおかしくは無いが……御馳走を食べるならむしろ明日以降にしたいと思うのが大半だろうな」
今夜このタイミングで高級ステーキを食べようなんて考えるのは、むしろ審査官として呼ばれた俺達くらいのものだろうな。
「まあ、今夜贅沢しようというのはタイミングがおかしいな。普通は明日か明後日だろう」
「……今思ったんだが、大会最終日まで俺達はこのホテルに泊まるんだよな? って事は、それまでの食事代も全部大会運営が払ってくれるのか?」
「それはそうだろうな」
「……もしかして、今夜無理にステーキを注文する必要は無かったのか……?」
結局、明日も明後日の分も運営が払ってくれるんだから今夜贅沢する必要は無かったのか?
「だから貧乏くさいねって言ってるんだよね」
「そうか? むしろ明日になったら私達の役目は終わるのだから、今夜こそ英気を養う必要があると思うが」
「毎日ステーキを注文する奴もいると思うけどね」
そう言いながらオリヴィエ達はステーキを食べていった。まあ、ミーシャの言う通り、自分が金を払うわけじゃないとなったら、毎日ステーキを注文する奴は確実にいるだろうな。




